鼠径部の痛み(グロインペイン症候群)

こんにちは二天堂鍼灸院の中野です。今回はスポーツ傷害でよくみられるグロインペイン症候群について書きます。脚の前面の付け根部分のことを鼡径部(そけいぶ)といいます。難しい字では、鼠蹊部とも書きます。グロインペイン症候群とはスポーツのやりすぎによる鼠径部周辺の痛みです。ランニングやサッカーなどの下肢をよく使うスポーツのオーバーワークが原因と考えられます。私の治療院では、バレリーナや競輪選手、マラソン・ランナー、ヨガインストラクターなど、下肢の運動量や柔軟性が求められる種目に多い印象です。

鼠径部の痛みをこじらせて困っている人

鼡径部痛(グロインペイン症候群)は運動をよくする人に多い傾向があります。最初は歩いたり走ったりすると鼡径部に痛みや違和感が出ます。しかし、重症化すると安静時にも痛みや違和感を感じます。「太ももを挙げると鼠径部につまったような違和感がある。」と訴える人も多いです。要は使い過ぎ症候群です。プロのアスリートやパフォーマーは職業病である程度仕方ありませんが、むしろ、やり過ぎで注意しなければならないのはアマチュアの方たちです。

プロフェッショナルの人はちゃんと疲労回復のメソッドがあり自己管理を行っています。また定期的にケアも受けています。しかし、趣味としてスポーツを楽しんでいる人たちは、そこまで自己管理が行き届きません。ほどほどに楽しむ程度なら問題ありませんが、中にはどう考えても「あんた、そりゃやり過ぎだろう。」という人がいます。

ランニング依存症

特にアマチュアランナーの皆さまは要注意です。毎日気軽に行えるランニング等のスポーツは依存性が高いと考えられます。なぜならランニングをするとβ-エンドルフィンなどの脳内物質が出て、ランナーズハイになることが知られているからです。

マラソンやジョギングを行うと通常、次第に苦しさが増してくるが、それを我慢し走り続けるとある時点から逆に快感・恍惚感が生じることがある。この状態をランナーズハイと呼ぶ。多くの検証実験から、この状態においては脳内にモルヒネ同様の効果があるβ-エンドルフィンという快感ホルモンに満たされていることが判明した。この内、β-エンドルフィンの増大が麻薬作用と同様の効果を人体にもたらすことで起こるとされる。運動中にβ-エンドルフィンがどう働くかのメカニズムは解明されていない。

Wikipediaより引用

おそらくこれが病みつきになってしまう原因ではないでしょうか。

ランニング

私も登山が趣味なので、しんどいけど気持ちがいいって感覚はよくわかります。おそらくその時はβ-エンドルフィンがたくさん出ているのかもしれません。しかし、登山は毎日行うものではありません。私の場合はせいぜい月1、2回です。でもランニングの場合、気軽に毎日、日課で行えるスポーツなので、そこに依存度を深めてしまう危険性があります。依存傾向のある方は大体毎日10キロ〜20キロランニングをしています。

★ 疲労回復が追いついていないのにやめれない。
★ 身体になんらかの故障があるのにやめれない。
★ 成績が下がるのが嫌なのでやめれない。
★ パフォーマンスが落ちてしまうのが怖くてやめれない。

こうした傾向がある人は、一度自分がランニング依存症になっていないか冷静に振り返ってみてください。そして、依存性で問題が生じているなら一旦ストップする選択肢も検討してください。不具合を抱えたままで競技を続けてもパフォーマンスは決して上がりません。そして、身体は益々疲弊し、ややこしい状態になっていきます。そんなランナーの人をたくさん診てきました。そして、重症化すると日常生活にも支障をきたします。

一度治療に専念し、身体をリセットして、それから再開してください。そこでパフォーマンスが少々下がるのは仕方ありません。三歩進んで二歩下がるでいいんです。そして、この機会に、依存症に陥らないように、セルフコントロールを身につましょう。プロの世界でも超一流とよばれる人たちは怪我をしません。休んでいる間に、プロアスリートの自己管理方法や怪我をしないトレーニング方法などを研究してください。悩みを抱えてる今のコンディションだからこそ、きっと良い気づきが得られますよ。そうすれば、次からは故障の少ない競技人生を歩めます。

余談ですが、先日、マラソン金メダリストの高橋尚子がお寿司屋さんを探してひたすら歩かされるバラエティー番組に出ていました。もちろん彼女は、いくら歩こうがへっちゃらでニコニコ楽しそうなんです。最後には周りのバテバテの同行者たちに走りましょうっていう始末で、その時「歩いているよりも走っている方が楽です。」ってコメントしてました。やっぱり!走り屋さんたちは、そういう体性感覚なんですね。

鼡径部痛の考察

さて、それでは鼡径部痛について考察します。

鼡径部痛については、腸腰筋の使いすぎが原因と考えています。
 腸腰筋は大腰筋と腸骨筋で構成されます。大腰筋は腰椎に腸骨筋は腸骨内側面に起始があり共に股関節の小転子に停止します。

図は腸腰筋を斜め側面から見た解剖図です。どこか不自然さを感じませんか?
腸腰筋は股関節の小転子へと停止する手前の鼡径部のところでくの字に折れ曲がっているのです。おそらくこのような変則的な筋肉の走行は、体じゅう探しても腸腰筋以外には見つからないと思います。

なぜこの様な不自然な走行になったか?その答えは直立二足歩行にあります。

四足歩行の動物の場合、腸腰筋のニュートラルポジションは、股関節90度です。また歩行に積極的に参加する筋肉でもありません。では何のための筋肉なのか?

ちなみにフィレと呼ばれる肉が大腰筋です。お肉屋さんでは、あまり使われない筋肉なので、柔らかくて、量も少ない、希少価値の高いお肉と説明しています。皆さんも食べたことあるでしょ。フレンチのコースでメインで出てくるお肉です。小さいでしょ。大きな牛の脚の筋肉ならもっと発達していてボリュームもあるはずです。

おそらく、腸腰筋は体幹を抗重力方向に立ち上げる筋肉ではないでしょうか。馬がびっくりしてヒヒーンと立ち上がるシーンや、熊が威嚇としてガオーと立ち上がる場面を想像してください。その時、体幹(背骨)と下肢(股関節)を渡している張り綱になるのが腸腰筋です。骨盤の恥骨部を滑車にしてエキセントリック(伸張性収縮)活動で一本マストの背骨を起こしているイメージです。滑車の働きをしている骨盤の恥骨部が、ちょうど鼠径部にあたります。つまり、緊急行動の立ち上がり動作の時にはたらく筋肉です。その立位を常態化し活動するようになったのが人類です。立位自体が、腸腰筋のイレギュラーポジションなのです。しかも、直立二足歩行では、大腿部を抗重力方向に持ち上げないと前進できません。そうして腸腰筋は歩行筋としての役割も担ったのです。

そうした構造を理解をした上で、鼡径部の痛みを考えると、腸腰筋の滑車部、くの字のストレス部に発生する痛みだということが理解できます。
下肢の運動量の多いスポーツや柔軟性を求められるパフォーマンスでは、腸腰筋をよく使います。筋肉は疲労が蓄積すると柔軟性が損なわれ、十分に伸縮できなくなります。その状態で動かすとストレス部位には圧力がかかり摩擦係数が上昇し炎症が発生しやすくなります。

グロインペイン症候群の治療

治療については原因となる筋肉のケアとトリートメントを行います。したがって、鼡径部痛の場合は、大腰筋と腸骨筋がターゲットです。
私の経験では優先順位の高い方は、大腰筋です。症状が軽度であれば大腰筋の治療だけで改善します。
でも、患者さんはびっくりします!「なんで?私が訴えてるのは鼡径部なのに腰に鍼するの?」って、しかし、その後、大腰筋に鍼が入った途端、理解します。
「あ~~私の悪かったところはそこなんだ!!」と。腰に入れた鍼の刺激がズドーンと鼡径部に響くからです。その感じが出たら大腰筋の治療だけでほとんど治ります。その響きが出なければ腸骨筋も合わせて治療します。


腸骨筋刺鍼(競輪選手)

大腰筋も腸骨筋も深部にある筋肉なので、深く鍼を刺入します。でも日本の鍼灸は浅い鍼が主流なので、深刺の操作ができる治療院は少ないのが現状です。大腰筋や腸骨筋の治療を受けたい場合は、鍼灸院へその旨、問い合わせみてください。

まとめ

スポーツ全般、オーバーワークでの故障はつきものです。起きてしまった故障については仕方ありませんが。それを契機に今の自分のスポーツへの取り組み方を振り返ってみてください。筋力不足がないか?柔軟性はどうか?フォームの改善は?休養は十分か?食事管理は?ステージ(年代)にあった運動量か?様々な観点でテーマを設けることができるはずです。そして、持続可能なスタイルを作り上げてください。

故障については早期発見早期治療が鉄則です。治療のタイミングが遅れるほど治癒にも時間を要します。早期に鍼灸治療を行うことで、夜間痛や日常生活での痛みについては、速やかに緩和できます。また、痛みで動かしづらい程度であればスムースな関節運動へ回復します。ただし、病期が長く代償作用が複雑で、全身性に症状が及ぶケースでは少し根気が必要です。しかし、治療を継続することで必ず回復期間の短縮が図れます。当院では上記のようにシステマティックなグロインペイン症候群の病態の解析を行って治療にあたっています。臨床経験も豊富です。グロインペイン症候群でお困りの方は是非ご相談ください。

この記事を書いた人

神戸市の鍼灸院・二天堂鍼灸院鍼灸師養成講座・ほんしん講座

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