慢性前立腺炎の鍼灸治療

執筆者 | 2021/06/23 | 慢性前立腺炎, 患者向け

こんにちは。二天堂鍼灸院の中野です。男性の皆さん、慢性前立腺炎という病気をご存じでしょうか?
前立腺は膀胱のすぐ下にある男性の生殖に関わる臓器で、前立腺液を分泌します。前立腺液は精液の一部となり精子を保護したり、栄養したり、その運動機能を助けたりするはたらきがあります。前立腺の病気は、中年以降に発症しやすい前立腺肥大や前立腺がんがよく知られています。しかし、知名度の低い前立腺炎という病気は若い人でも発症します。前立腺炎の症状は、会陰部(陰嚢と肛門の間)の痛みが代表的ですが、その他にも陰嚢、陰茎、下腹部などの痛み、不快感、あるいは頻尿、残尿感、放尿時、射精時の痛みなどがあります。

鍼が適応する慢性前立腺炎の正体とは?

普通に考えれば、診療科は泌尿器科です。泌尿器科では細菌の有無を調べ、細菌性であれば抗生剤を処方します。細菌性の場合は、性交における感染症が多く、抗生剤が著効します。問題は、非細菌性で原因の特定できないタイプです。このような場合、慢性前立腺炎という診断になり、積極的な治療法が無く困っている人がたくさんいらっしゃいます。

初めて慢性前立腺炎の相談を受けた時、恥ずかしながら私はそんな病気があることを知りませんでした。しかしながら、症状を尋ねたところそれなら対処できるかもしれないと思いました。

その患者さんは会陰部の痛みを訴えていました。痛みの治療については鍼灸治療の得意分野です。下肢に痛みが出る坐骨神経痛の治療の時に、梨状筋に刺鍼すると時折陰部に刺激が放散することがあるので、それを応用できないかと考えたのです。

ビギナーズラックかもしれませんが、この患者さんには見事に効きました。それも1回の治療でほとんど症状が消失してしまったのです。その後、何例か診ていくうちにかなりの確率で効果をあげることができました。それでホームページに症例を載せたところ、次から次に来院があり、あらためてこの病気で困っている人が多いことを知りました。

私が行っている治療は、前立腺の治療ではありません。では何かというと陰部神経痛の治療です。
私は慢性前立腺炎の診断を受けた人たちの中には、実際は前立腺に問題のない陰部神経痛の人がかなり含まれていると考えています。私の臨床の感覚では3人に1人くらいです。つまり30パーセントくらいの確率で鍼治療が奏功します。

①慢性前立腺炎とは?

慢性前立腺炎(まんせいぜんりつせんえん)とは、文字通り慢性の前立腺炎と定義されるが、その診断・治療は必ずしも容易では無い。会陰部痛・違和感、排尿関連症状を初め多彩な症状がありえ、原因にも病態により諸説考えられている。
この慢性前立腺炎の原因は、急性の細菌性前立腺炎が慢性化して起こる場合と、何らかの基礎疾患があるか、カテーテルが入っているか、結石のような異物があり、それがブドウ球菌腸球菌セラチア菌などの細菌によって慢性的に起こる場合がある[1][2]
ただ細菌が原因となる慢性前立腺炎は10%程度と比較的少なく、ほとんどが細菌とは関係の無い原因不明の非細菌性慢性前立腺炎である。

Wikipediaより引用
栗の形が前立腺

②梨状筋症候群かも?

当院では慢性前立腺炎に梨状筋刺鍼を行います。梨状筋は坐骨神経が下肢へと延びる骨盤出口の部分に付いています。この筋肉が硬化することで、坐骨神経を絞扼したり、圧迫したり、牽引したりする場合があり、その結果、神経痛が起きているものを梨状筋症候群といいます。 
梨状筋症候群の場合、梨状筋へ刺鍼すると坐骨神経に刺激が放散します。足先のあたりまでビリビリっと電気が走る感じです。しかし時折、陰部に刺激が放散する場合もあります。これは坐骨神経に近在する陰部神経に刺激が入ったときです。つまり梨状筋は坐骨神経だけでなく陰部神経の刺激要因にもなると考え応用したのが当院の治療法です。 

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上の図で青く示したのが陰部神経です。前立腺、陰茎、陰嚢、会陰部等に神経の枝が分布しています。その隣にある黄色の太い枝が坐骨神経です。そして、骨盤の出口から股関節へ横行するように付いているのが梨状筋です。この梨状筋が何らかの理由で凝り固まり、坐骨神経を圧迫したり、絞扼したりする場合があり、それが原因で起こる坐骨神経痛を梨状筋症候群といいます。坐骨神経痛は皆さんご存じですね。神経痛の中でも、かなり代表選手です。脚に痛みや痺れが出る神経痛です。よく見てください、坐骨神経も陰部神経も腰部から出る神経で、非常に近い位置にあります。そこで、梨状筋症候群は坐骨神経痛だけでなく、陰部神経痛の原因にもなりうるのではないかというのが私の考えです。

③正体は陰部神経痛

皆さん脚に痛みが出たら何科を受診されますか?おそらく整形外科ですよね。整形外科では、レントゲンやMRIで腰の状態を確認します。腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症などが無いか検査するのです。さてそこで「ヘルニアかな〜」とある意味めでたしめでたしです。病気の原因がちゃんとわかると、対処の仕方や治療方針も決まるのでいいことです。

さて陰部の方に痛みがでたら、皆さん何処に行きますか?泌尿器科ですよね。ここでミスマッチが起こるのです。もしも、あなたの症状が陰部神経痛だったら、梨状筋症候群の可能性が高いのです。つまり、整形外科のカテゴリなんです。かと言って、整形外科に陰部が痛いですと訴えても、おそらく泌尿器科に行けと言われるのが落ちです。そうしてさまよえる慢性前立腺園の患者さんの出来上がるのです。

泌尿器科では、痛みの場所からいって前立腺の検査をします。細菌が検出されるかどうか?検出されれば感染症です。抗生剤で治ります。めでたしめでたし。

困ったのは細菌も検出されない謎の前立腺炎→慢性前立腺炎のいっちょ上がりです。もちろん原因不明の慢性前立腺炎がすべて陰部神経痛だとは言いません。前述したとおり、3人に一人くらいはその可能性があるのではないかというのが私の推測です。

④なぜ梨状筋が硬くなるのか?

原因不明の慢性前立腺炎の患者の中には、トラック運転手、タクシードライバー、事務職などの長時間の座り仕事、その他、自転車での通勤、通学の人が多く含まれるようです。でも普通に考えて、それが前立腺の炎症とどう結びつくのかよく分かりません。しかし、長時間の座り仕事や自転車によく乗るということと、梨状筋の硬化は簡単に説明がつきます。要は臀部への荷重による圧迫です。それが長時間に及べば圧迫されている筋肉は血流が阻害されるので硬くなってしまいます。寝たきりの人の褥瘡(床ずれ)と同じですね。寝たきりの人は自分では寝返りができないので、適当に体位を変換して上げなければ床ずれになってしまいます。さすがに病人で無いので不動ということはありえませんが、梨状筋カチカチ症候群は分かりやすく説明するとそういうことです。
 

⑤治療の実際

施術者向け情報

坐骨神経や陰部神経を狙った梨状筋刺鍼は、大坐骨孔へ鍼を入れていくイメージで行います。使用する鍼は3寸8番です。陰部神経については、坐骨神経点より少し仙骨へ寄せて刺入するとヒットしやすいです。梨状筋が硬化していて、なおかつ症状域(会陰部、陰茎、陰嚢など)へ刺激が放散すれば、梨状筋症候群による陰部神経痛の可能性が高いです。さらに刺激が出たところで鍼を留め神経パルス(1Hz/20分)を行います。この時刺激が出た反応点から少しでも鍼がずれると上手く刺激が入りません。症状域にしっかり刺激が入るように鍼を調整しながら行ってください。

梨状筋刺鍼(陰部神経刺鍼)で神経パルスを行います

まとめ

結論、鍼が適応の慢性前立腺炎の正体は陰部神経痛です。梨状筋症候群による陰部神経痛なら3回も治療すれば必ず症状が軽減します。早い人なら1回目の治療で効果を実感してもらえます。1回目が無反応でも2回目から変化する場合も少なくありません。3回くらいはチャレンジしてもいいと思います。しかし3回受けても何も変化が無ければ残念ながら適応外と判断します。
慢性前立腺炎でお困りの人はご相談ください。

この記事を書いた人

中野保
中野保

二天堂鍼灸院院長 / ほのしん講座代表

行岡鍼灸専門学校卒業後に北京堂鍼灸・浅野周先生に師事。2001年に独立し二天堂鍼灸院を開院。2007年に炎の鍼灸師・養成講座(現在のほのしん講座)を開校し、後進の育成にも力を入れています。2018〜19年に 『医道の日本』誌に治療法連載。2020年 臨床総合実習(必修単位)の認定施設として学生の指導を開始。2021年 開業20周年を迎え、神戸市・芦屋市での地域一番院を目指し日々臨床に取り組んでいます。
神戸市の鍼灸院・二天堂鍼灸院
鍼灸師養成講座・ほんしん講座