神経痛の治療

執筆者 | 2021/07/05 | 鍼灸師向け, 神経痛

こんにちは。二天堂鍼灸院の中野です。
こちらの記事は、鍼灸師向けの専門的内容ですが、該当する症状で鍼灸治療をご検討の方にも一読をおすすめします。
また主催する「ほのしん講座」の受講生や当方の術式に興味のある先生は参考にしてください。

解剖学的な鍼とは


治療院あるあるで、五十肩が来たなと思ったら続いたり、ギックリ腰が来たなと思ったら連続したり、同じ症状の患者が続くことがよくあります。おそらく気候の加減で、同じような病の人は、同じタイミングで発症するのかもしれません。

先日も坐骨神経痛の患者が続いて来院しました。やはり暖冬続きで急に冷え込んだタイミングでした。しかし、問診をとってみると、確かに脚の神経痛ですが、症状の出ている場所がそれぞれ微妙に違います。

一般的認識では、下肢に出ている神経痛は、何でも坐骨神経痛にされがちですが、当然そんな事はありません。症状域によって、大腿神経痛のこともあれば、閉鎖神経痛のこともあります。下肢へ分布する神経をよくおさらいしてみてください。

大腰筋刺鍼(腰神経叢刺鍼)をすると下肢の神経へ刺激が放散します。特に大腰筋性の腰痛に下肢の神経症状(神経痛や怠い、重いなど)が伴う場合は顕著です。障害されている神経は、多くの場合緊張状態にあり、刺激に対する感度が上昇し、非常に敏感になっているからです。この時、刺激の放散する場所をよく確認してください。大腿部前面へ(大腿神経)、大腿部外側へ(大腿外側皮神経)、内転筋群へ(閉鎖神経)、足先まで放散したり(坐骨神経)、面白いように解剖学書の神経の走行通りにひびきが出ます。こうした経験を積むとこで、解剖的な鍼への理解が深まると思います。

神経因性を疑え


解剖学的な鍼を行っていると、多くの症状に神経性の原因が潜んでいることに気づきます。

特に四肢の領域で起こる症状については、まずそこに神経性の原因は潜んでないか?という事を念頭に置いて診察する癖がつきました。

患者が四肢の症状で、痛みやしびれを訴えた場合は、比較的神経痛を想定しやすいですが、時に、重い、怠い、張る、凝る、疲れる等を訴えた時にはどうでしょうか?主訴部位にばかりとらわれていないでしょうか?まず、よく問診を取ってください。よく歩いた、運動した等、原因が特定できるものについては、局所の疲労を処理すればいいのですが、そうでないものについては、体幹からの神経症状を疑ってください。

神経痛を含む神経機能障害の治療では、概ね原因となる解剖学的トラップは症状域より上流にあります。さらに言うとほぼ体幹にあります。『神経症状は体幹でたたく。』と覚えてください。そして、解剖学的トラップで起きた神経障害は、その場所ではなく、その下流域に症状として現れます。

ここでは上肢と下肢に絞って説明します。症状域の上流にある解剖学的トラップ(神経障害部位) とは、神経叢の神経根部と体幹出口です。つまり上肢の場合は、腕神経叢の神経根部と胸郭出口であり、下肢の場合は、腰・仙骨神経叢の神経根部と骨盤出口です。
              
そして、診断と治療を兼ねて、原因となる解剖学的トラップにアプローチします。そこで患者の訴えてる症状が再現できれば、概ね良好な治療成績が期待できます。

ただし、患者の愁訴が神経症状で成立していたとしても、それを鍼で再現できるテクニックがなければ、神経症状の原因治療を行うのは困難です。治療が確かに効いたという成功体験をなくして実感は得られないからです。

そうなると、ゴーストを追いかけて症状域に施術したり、経絡や経筋での考察をしたり、はたまた弁証で体質治療をすることになります。もちろん、それで結果が出せるなら問題ありません。しかし、神経症状で括るなら、東洋医学的治療と解剖学的治療を比較すると、明らかに東洋医学的治療では再現性に劣るというのが私の意見です。

このブログでは、私が行なっている治療法を可能な限り公開していきます。併せて『ほのしん講座』を受講いただければ、効率の良い学習ができます。是非ご検討ください。


梨状筋と坐骨神経の交差部

『鍼灸院治療マニュアル』浅野周著には「神経と筋肉とが直角近くに交わるところが治療ポイント」との記載があります。最初は意味がよくのみこめなかったのですが、よくよく考えるとその通りです。

実際、神経が障害されている部位で何が起きているのか本当のところは分かりません。しかし、おそらく硬結化した筋肉が神経に対して機械的、物理的刺激要因になっていると想像できます。それが圧迫なのか?牽引なのか?絞扼なのか?そこは分かりませんが、そうした物理的力が働くには、そうなりやすい機械的条件があると思います。それが筋肉と神経が垂直に交差するポイントだという事です。神経をピンと張った紐、硬結化した筋肉を棒とすると、この紐に物理的力を加えるには、紐に対して直角に棒を押し付けるのが一番有効です。そのポイントが神経根部であり、体幹出口に当たります。下肢を例にとると、腰神経叢神経根部と大腰筋、骨盤出口の梨状筋と坐骨神経が神経と筋肉の直角交差ポイントとしてはイメージしやすいのではないでしょうか。それに対して、上肢、下肢の領域では、ハムストリングと坐骨神経のように、神経の走行と筋肉の走行が一致しているので、神経は障害されにくいと考えられます。

四肢の神経痛は前部コアマッスルが鍵

それでは、神経痛及び神経因性の症状についての治療を具体的に説明します。

初発で軽症ならば、固有背筋の治療(夾脊刺鍼)だけで治療が完了する場合もあります。この段階では、固有背筋の疲労により、支配神経の脊髄神経後枝が緊張し、同位の前枝に興奮が感作し症状が出現しているケースです。軽度の肩こりや腰痛による、頚肩腕症候群や腰臀脚症候群などです。

しかし、再発性や慢性化している病態では、ほとんどのケースで、前部コアマッスルが二次的に硬化しています。

前部コアマッスル支配神経症状域
斜角筋頚・腕神経叢頭部・上肢
大腰筋腰神経叢下肢
梨状筋仙骨神経叢下肢


前部コアマッスルは上肢、下肢へと支配神経が出る神経叢のところについている筋肉です。斜角筋と大腰筋と梨状筋の三つの筋肉です。

本来、前部コアマッスルは脊柱を支持する姿勢筋ではありません。したがって凝りようのない筋肉なのです。それがなぜかカチコチに硬化してしまう。疲労が蓄積するなら、固有背筋のように軽症から重症まで筋肉の硬さには、グラデーション(段階)がありますが、ここはなんだか違います。ノーマルの人とカチコチの人の症状差が極端なのです。臨床経験としては、前部コアマッスルの硬化現象は十分認識していましたが、ではなぜ硬くなるのか?その理由がよく分からない。それが長年の疑問でした。


前部コアマッスル


しかし、この三つの筋肉には、筋肉名を冠した症候群(斜角筋症候群、大腰筋症候群、梨状筋症候群)が存在し、すべて四肢を支配する神経叢支配であることに気づいたことで疑問が解消しました。前部コアマッスルに対して、後部コアマッスルにあたるのが固有背筋です。二つの筋肉群は脊髄神経前肢支配と後枝支配の組み合わせで、同位の神経根から分枝する前肢と後枝では、脊髄反射を介して、互いの興奮度はシンクロします。つまり、陳旧性(再発性、慢性)の肩こりや腰痛では、後部コアマッスル(固有背筋)の疲労を背景に前部コアマッスル(斜角筋、大腰筋、梨状筋)に緊張がシンクロします。そうして、四肢に神経痛や神経症状が発生すると、今度はそのフィードバックでも前部コアマッスルには緊張が生じます。この負の連鎖が前部コアマッスルの硬化現象の原因ではないでしょうか。

梨状筋刺鍼


前部コアマッスルへの刺鍼は、該当する筋肉の治療でもあり、同時に神経叢刺鍼でもあります。つまり、斜角筋刺鍼は、頚・腕神経叢刺鍼。大腰筋刺鍼は、腰神経叢刺鍼。梨状筋刺鍼は、仙骨神経叢刺鍼です。よって、四肢の神経痛の治療については前部コアマッスル刺鍼をマスターしてください。

斜角筋刺鍼と大腰筋刺鍼については『大腰筋刺鍼』『頚部の鍼治療』 を参照ください。ここでは梨状筋刺鍼について説明します。

梨状筋は仙骨と大転子に付く股関節の外旋筋です。坐骨神経痛の場合、上後腸骨棘と大転子を結んだ線の中点より垂線を下ろし2センチのところに坐骨神経点を採ります。もっと簡便な方法としては、お尻の割目の消失点がおよそ同じ高さになります。横寸ついては大坐骨孔を触診で確定し、そこを刺入点とします。大坐骨孔の触診は、仙骨縁から大転子に向かって押圧をかけていき、最も指が沈むところです。この大坐骨孔に鍼を通すイメージで刺入してください。

坐骨神経痛と陰部神経痛が、梨状筋刺鍼(仙骨神経叢刺鍼)の対象です。大坐骨孔を直径3センチ程度と仮定した時、その外側と内側で坐骨神経(外側)と陰部神経(内側)のヒット点を打ち分けています。

神経痛に対して、腕神経叢刺鍼(斜角筋刺鍼)、腰神経叢刺鍼(大腰筋刺鍼)、仙骨神経叢刺鍼(梨状筋刺鍼)を用いる場合は、主訴領域への刺激の放散、つまり患者の訴える症状の再現を目標に行ってください。神経痛や神経症状の原因となる神経は、興奮状態にあり、刺激に対する感度が非常に上昇しています。よって、健常な状態の筋肉と比較すれば、はるかに神経性の得気が発生しやすいです。したがって、症状が再現できれば、概ね良好な治療効果が期待できます。

器質的病変の神経症状について


頚椎や腰椎では、椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、椎間狭小、骨棘形成等、骨に侵食している不可逆的な病態が、神経痛の原因になっていることがよくあります。こうした疾患の原因治療については外科的な処置が必要です。しかし、それは歩行困難や膀胱直腸障害など重篤なケースで、ほとんどの場合は経過観察しながらの保存療法になります。

残念ながら、鍼治療でも器質的病変については、原因治療はできません。でもこう考えてみてください。ある日突然、髄核が飛び出して椎間板ヘルニアになるのでしょうか?脊柱管の中が急に狭くなって脊柱管狭窄症になるのでしょうか?突然、椎間板がぺったんこになるのでしょうか?骨がいきなり増殖して骨棘が形成されるのでしょうか?そんな訳はありません。その多くは、腰や頚の悪い状態を放置し、脊柱に過度のストレスがかかり続けて破綻した結果、椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、椎間狭小、骨棘形成に至るのです。つまり、まずは腰や頚の疲労ありきです。この疲労の正体は、筋肉のコリです。軟部組織の疲労状態を放置した結果、器質的病変に至ったというストーリーです。

だから、不可逆性の器質的病変であっても、それが症状の全ての原因ではありません。(中には椎間板ヘルニアがあっても無症状の人もいます。)多くのケースでは、器質的病変と軟部組織の疲労がミックスされて症状が出来上がっています。実際、器質的病変がある周囲の筋に鍼を刺入すると、カチコチに硬化しています。このような筋肉は、血流が悪くなって代謝障害を起こしています。新鮮な血液が供給されないので、酸素や栄養が不足し、また二酸化炭素や老廃物が代謝されず、筋肉が痩せてカチコチになっているのです。

このような筋肉に鍼治療を行うことで、血流を回復し、組織の新陳代謝の促進を図れます。そして、症状の緩和や病態の進行を予防できます。筋肉に対する鍼治療は、ミクロのオペのようなものです。筋肉の中にミクロのメスを入れて、炎症を誘発し、血流を呼び込むのです。私は保存療法の中では、鍼治療が最も積極的な治療だと考えています。

陰部神経痛の治療


最後に正しく神経痛と認識されないために難治となっている病気を紹介しておきます。慢性前立腺炎という病気を知っていますか? 主な症状は会陰部や陰嚢、陰茎などの陰部周辺の痛みです。普通に考えれば泌尿器科での診察になります。泌尿器科では細菌の有無を調べ、細菌性であれば抗生剤が処方されます。この場合は、いわゆる淋病です。性交における感染症なので、抗生剤が奏効します。問題は非細菌性で原因の特定できないタイプです。

初めて慢性前立腺炎の相談を受けた時、坐骨神経痛の梨状筋刺鍼で時に陰部へ響く事を経験していたので、それが応用できないか試してみました。結果は見事に症状が緩和され、ほぼ完治しました。

つまり梨状筋での陰部神経刺鍼です。坐骨神経や陰部神経を狙った梨状筋刺鍼は大坐骨孔へ鍼を入れていくイメージです。陰部神経については坐骨神経点より少し仙骨へ寄せて刺入します。梨状筋が硬化していて、なおかつ主訴域(会陰部、陰茎、陰嚢等)へ触電感が放散すれば奏効する確率が高いです。適応であれば3診目までには症状が緩和します。

鍼が適応する慢性前立腺炎の正体は、前立腺の病気ではなく陰部神経痛です。つまり前立腺周辺の痛みはゴーストです。解剖学的トラップは梨状筋による陰部神経の機械的刺激であると考えられます。そうなると泌尿器科でなく、むしろ整形外科のカテゴリーです。しかしながら、陰部が痛いと整形外科に診察を求める人はいないし、病院側もおそらく対応に困るでしょう。そのため積極的な治療法も無く長期にわたって苦しんでる患者が潜在的にたくさんいます。

私の治療所には慢性前立腺炎の患者がたくさん来ます。そして、かなりの確率で陰部神経痛の患者が含まれています。慢性前立腺炎(実は陰部神経痛)に鍼治療が特効するということはあまり知られていません。また、女性では婦人科の治療に応用できます。生理痛のきつい患者に梨状筋刺鍼(陰部神経刺鍼)を行ったところ、生理痛が再現されました。「あっそうか!生理痛(月経痛)は子宮痛だ。」と気づきました。結局、骨盤内臓器全般の症状については、梨状筋刺鍼を試してみる価値はあると思います。内臓器自体の病気なら治効は低いかもしれませんが、内臓器の問題ではなく神経痛で出ている痛みなら効果が期待できます。治療の機会があれば是非追試ください。

余談ですが、私はかつて大腿四頭筋の筋痙攣に悩んだ経験があります。痛みはないですが、決して気持ちのいいものではありません。

原因は筋トレでした。懸垂用のスタンドで、チンニング(広背筋)やレッグレイズ(腹筋)、ディップス(大胸筋、上腕三頭筋)といったエクササイズを始めたところ、しばらくして症状が出ました。どれもぶら下がってやる上半身の自重トレーニングです。つまり自分の身体を重りにするのですが、この時大腿部を少し屈曲して体幹を安定しないと正しいフォームが作れません。体操選手の鉄棒や吊り輪のパフォーマンスを思い出してください。体幹がきっちり安定していて美しいフォームです。もちろんそこまで高度ではありませんが、これが予想以上に厳しく非日常的なワークアウトでした。結局それでコアとしての大腰筋の使い過ぎで腰神経叢が興奮し出てきた症状ではないかというのが私の推論です。そこで、大腰筋刺鍼をしてみると、案の定大腿部に刺激が放散し、筋痙攣が治まりました。

つまりこの場合、大腿四頭筋の筋痙攣は、大腰筋のオーバーワークによる腰神経叢の緊張が原因です。大腿四頭筋自体に問題はありません。つまりゴーストです。だから痙攣している筋肉に鍼を打ってもあまり効果がありません。大腰筋(腰神経叢)に解剖学的トラップがあるのです。

もう一つ納得したのは、神経痛や腰痛などの患者さんから問診を取ると「夜中に増悪する。」「起床時が辛い。」「朝起きてしばらくごそごそ動いていると楽になる。」という話をよく聞きます。このような場合は、原因が筋肉にある可能性が高いのです。私も日中はそれほどでもなく、治ったのかなと思いきや、就寝中、夜中になると再発、日中よりも細かく激しく痙攣しました。

これは筋肉にとって静止した状態で放置されるのが一番良くないからです。究極は寝たきりです。寝たきりの人の筋肉は萎縮して、ゴムタイヤのように硬く弾力性がありません。筋肉は伸縮することにより筋中の血管がポンピングされ、酸素や栄養が供給され、老廃物が代謝されます。就寝中はじっとしているので健常でない筋肉にとってはそこで追い込まれ悲鳴をあげるのです。

さらに自律神経の面から考えても、臥位は固有背筋の緊張が解け、交感神経活動が低下し、相対的に副交感神経活動が高まるポジションです。副交感神経優位の状態の時は、内臓への血流が増加し、筋肉への血流は低下します。交感神経優位の場合はその逆です。この理屈も全く上記の症状に当てはまりますね。就寝中は筋肉への血流が低下し虚血気味になります。起き出して筋肉を活動状態にすれば血流が回復し症状が緩和されるのです。

ギックリ腰の患者などから、安静にしてた方がいいのか、動いた方がいいのかと質問されることがしばしばあると思いますが、私は以上のような理由から安静にし過ぎる必要はないとお伝えしてます。もちろん無理は禁物ですが、適度にごそごそ動いている方が筋肉の回復には良いと説明しています。

この記事を書いた人

中野保
中野保

二天堂鍼灸院院長 / ほのしん講座代表

行岡鍼灸専門学校卒業後に北京堂鍼灸・浅野周先生に師事。2001年に独立し二天堂鍼灸院を開院。2007年に炎の鍼灸師・養成講座(現在のほのしん講座)を開校し、後進の育成にも力を入れています。2018〜19年に 『医道の日本』誌に治療法連載。2020年 臨床総合実習(必修単位)の認定施設として学生の指導を開始。2021年 開業20周年を迎え、神戸市・芦屋市での地域一番院を目指し日々臨床に取り組んでいます。
神戸市の鍼灸院・二天堂鍼灸院
鍼灸師養成講座・ほんしん講座

最新の記事