お灸について

お灸

こんにちは二天堂鍼灸院の中野です。今回はお灸についてご説明します。お灸にもいろいろあって、大きくは皮膚に直に据える透熱灸と直に据えない温灸とに区別できます。

透熱灸のすすめ

透熱灸と温灸のちがい

当院の灸治療では主に透熱灸を用います。透熱灸が熱くて我慢できない場合は、知熱灸でおこないます。
温灸はあまり用いません。温灸と透熱灸では作用が異なります。

温灸

温灸は、温熱作用により体をあたため血行を促進します。下の写真のように燃焼する艾の下に台座がついた千年灸タイプのものが一般的な温灸です。ドラッグストアでも販売されています。家庭でも簡単にできますので、セルフケアで用いるのに適しています。

 

透熱灸

透熱灸では、皮膚のタンパク質が熱変性により異種タンパクが発生します。いわゆる火傷です。異種タンパクは異物反応により免疫系を賦活します。
身体に対しての侵襲性が全く違う点では、マッサージと鍼の関係に似ています。マッサージや温灸は、気持ちいいけど効果はあまり持続しません。それに対して、鍼や透熱灸は生体に負担にならない程度の微小なダメージを与え生体機能の賦活します。したがってダメージからの修復過程の期間は効果が持続します。

下の写真のように艾を直接皮膚の上で燃焼させます。ご家庭でも出来ますが、据え方にテクニックや加減が必要となります。素人が行うと火傷の痕が大きくなりがちです。

 

知熱灸については、温灸と透熱灸の間のグラデーションで侵襲性を調整できます。気持ちのいい温熱作用でとどめるこもできれば、荘数を重ねて火傷をつけることもできます。(知熱灸は艾を最後まで燃焼させずに熱さを感じたところで取り除くやり方です。燃焼している艾を指で摘んで取り除くので素人には難しいやり方です。)

時に温灸で火傷する場合もありますが、軽度の熱傷で水疱が生じるジュクジュク火傷になりヒリヒリする痛みが残ります。また治癒後、皮膚がケロイド化する場合があります。透熱灸の場合は、痂皮(かさぶた)を形成し瘢痕が残りますが、かゆみが出る程度で痛みは残りません。(上手に据えれば直径5ミリ程度の痕が残るだけです。火傷の傷が治癒すればそこだけ白く色素が抜けたような痕になりそれほど目立ちません。)異種タンパク療法を期待するなら、痂皮の形成→瘢痕化する重度の熱傷が必要です。だから、温灸については火傷が生じない程度の温度の低いものを用い、透熱灸については瘢痕化するので半米粒〜米粒大程度に極力小さく据えるのがコツです。

熱傷の重症度は下に示すように、傷害された皮膚の深さと面積によって分類されます。

  • ①Ⅰ度(ED);  表皮内の熱傷。皮膚の赤み、むくみが生じます。痛みは強いものの、通常、数日で治癒し、傷跡も残りません。
  • ②浅達性Ⅱ度(SDB);  真皮浅層の熱傷。皮膚の赤み、むくみに加えて水疱(水ぶくれ)が生じます。鋭い痛みを伴い、通常、1〜2週間で跡を残さないことが多いです(色素沈着を生じることがあります)。 
  • ③深達性Ⅱ度(DDB);  真皮深層の熱傷。赤み、むくみ、水疱を生じます。皮膚付属器(体毛、汗腺など)や神経終末も障害されるため、痛みはSDBより強くなります。通常、3〜4週間で治癒しますが、瘢痕形成することが多いです。 
  • ④Ⅲ度;  皮下組織まで及ぶ熱傷。水疱は形成せず、血管傷害によって皮膚は白色(または黒色)になります。また、知覚神経傷害により痛みはほとんどありません。通常、治癒までに1ヶ月以上かかり、肥厚性瘢痕や瘢痕拘縮(ひきつれ)を起こしやすくなります。

温灸での火傷はステージⅠ度〜Ⅱ度で、透熱灸はⅢ度の熱傷になります。私は透熱灸はレーザー治療に酷似していると感じています。鍼や灸という原始的な道具は、上手く用いれば現代医療に匹敵し、もしくはそれ以上の効果を期待できると思います。

透熱灸の用途

それでは具体的な治療について説明します。私が灸を用いるのは次のような場合です。

・免疫系疾患
・内科疾患
・高齢者の滋養強壮
・関節痛、神経痛

免疫系疾患

・自己免疫疾患やアレルギー疾患など免疫過剰の病気では、透熱灸をすることで免疫機能の正常化を期待できます。
私がよく患者さんにする例え話は、「無駄に仕事をしている免疫くんたちに、お灸で火傷をつけて、こっちでちゃんとやりなさいよと仕事をあたえてあげるんです。」
どうですか?わかりやすくないですか。
例えば喘息や咳がなかなか抜けない風邪には、肩背部の風門、肺兪、膏肓に透熱灸を5荘〜10荘程度します。気管支で過剰になっている炎症(免疫反応)を対岸で火事を起こすことで散らすんです。そんなイメージで灸をつかいますが、実際よく効きます。

内科系疾患

・内科疾患では、膈兪、肝兪、脾兪の「胃の六つ灸」をよく使います。胃の不調によく効きます。鍼でもいいのですが、筋緊張が内臓の不具合によるものならば、筋肉よりも内臓への作用が期待できる治療を選択すべきです。そうすると鍼よりも作用期間が長いお灸が優れています。灸は重度の熱傷をピンポイントで用いる技術です。つまりレーザー治療です。火傷の修復には1ヶ月程度かかります。その期間、お灸の効果は持続します。

高齢者の滋養強壮

・高齢者の滋養強壮では、主に下肢とお腹のツボを使います。

下肢は、足三里と照海(澤田流太谿)です。足三里は言わずとしれた名灸穴です。胃のツボであり、健脚のツボであり、健康増進のツボです。非常に汎用性の高い万能穴です。比較的、肉の厚い部分で刺激の感受性もおだやかなので多荘灸に向いています。照海は、腎経のツボです。滋養強壮がはかれます。肉の薄い部分で、皮下には脛骨神経があるので非常に刺激が強い場所です。衰弱し機能低下した高齢者の身体は、感覚刺激に対しても反応が鈍いので、極小のダメージで強刺激が可能な照海は大変有効です。三荘程度で十分に効果を発揮します。足三里は多荘灸で異種タンパク療法にして持続効果を期待します。照海は強刺激で衰弱した生体を奮い立たせるイメージです。

お腹は、巨闕、中脘、気海、関元、中極などの任脈のツボをよく使います。
胃の不調や食欲不振には上腹部のツボを、滋養強壮や泌尿器系には下腹部のツボと使い分けています。反射痛で顕著な圧痛点があれぼそこを優先します。
お腹は多荘灸にもっとも適しています。中脘や関元にしっかり据えこんでみると効果が高いです。

関節痛・神経痛

・運動器疾患については、関節痛や神経痛で顕著な圧痛点があればそこに据えます。筋肉の治療に灸は用いません。やはり筋肉内に刺入できる鍼の方が優れているからです。

お灸の道具

上もぐさは香りも非常によく、使用量も少なくて済みます。比べて精製度の低い温灸用のもぐさは、香りにえぐみがあります。使用量も多いので、壁にヤニがついたりします。

私が愛用しているのは、「紙めくりの滑り止め」と「護摩線香」です。紙めくりはダイソーで、護摩線香はコープで購入します。

滑り止めはワセリンでも代用できます。少量皮膚に塗布すれば、ベタつかず艾が非常によくつきます。水はダメです。乾いてすぐにぽろぽろ落ちます。しかも艾が湿るので燃焼温度が下がります。スティックのりや紫雲膏などは、べたついて扱いが悪いです。
私はこの紙めくりクリームを発見してから、お灸をする頻度がぐんと増えました。鍼灸師の先生は、是非つかってみてください。おすすめです。護摩線香は、太くて燃焼時間も長く、安価です。コープではアマゾンの半額くらいで売っています。

まとめ

総じて私の治療は鍼がメインで灸の使用頻度はそれほど多くありません。しかし、「困ったときの灸頼み」で施灸を加えることで治療の突破口がひらき救われたことは何度もあります。私たちは「はり師」であると同時に「きゅう師」でもあります。現代中国では透熱灸の技術は廃れてしまったと聞きます。日本では澤田先生や深谷先生が残した灸治療の功績は大きいものがあります。

透熱灸や知熱灸をつかいこなしてこその鍼灸師です。そして透熱灸や知熱灸で治療すればツボの痕が残ります。これを「点を下ろす」といいます。そのツボの痕にご自宅で補助的に温灸を行っていただければさらに効果が持続します。

この記事を書いた人

神戸市の鍼灸院・二天堂鍼灸院鍼灸師養成講座・ほんしん講座

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