腰痛の鍼灸治療

執筆者 | 2021/06/07 | 腰痛, 患者向け

こんにちは二天堂鍼灸院の中野です。今回は腰痛の鍼灸治療について書きます。とはいえ腰痛の原因も種類もさまざまです。それを総括的に説明すると平板な内容になるので、一つの臨床ケースを取り上げてご紹介します。当院での診断について、腰痛の病態の捉え方について、ご理解いただけるように記述しました。

突然襲ってくる腰痛

「先生、なんで私こんなことになってしまったのかしら?」はじめてぎっくり腰になった患者さんは、よくこんな質問をぶつけてくる。
確かに突然痛みが襲ってきたのだが・・・よ~く考えてみましょう。私たちのカラダは日常のなんでもない動作で突然激痛が走るようにできているのか?そんなわけはありません。よくよく話を聴くと普段から腰に不安感や違和感を感じていたという人がほとんどです。何らかの前兆やサインはあったものの日々の忙しさに追われ顧みる余裕すら無かったという人が多いようです。

「あなたの腰は、いつ痛くなってもおかしくない状態でここまできたんですよ。たまたまそれが今日、物を取ろうと手を伸ばした瞬間で、あと一滴水を垂らせばいつでも溢れる状態だったんです。」それが私の答えです。

肩でも腰でも、疲労が溜まってガチガチに凝り固まっているのに、自覚がないという人はいくらでもいる。そしてこういう人たちが、ある日突然ぎっくり腰になったり寝ちがえたりする。肩や腰は、硬直して少しの余裕もない状態だから、本当になんでもない動作でギクッとやってしまう。
西洋ではぎっくり腰のことを魔女の一撃というそうだが、これもなかなか的を射たネーミングだ。突然発症する急性の腰痛は古今東西かわらないのでしょう。腰痛は二足歩行を獲得した人類の共通症状なのです。

腰痛の原因はさまざま

さて、ぎっくり腰に関わらず、腰痛の原因は様々で、椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄、腰椎分離症、腰椎すべり症、筋筋膜性腰痛、それらが複合したケースや原因の特定がしづらい腰痛も珍しくありません。

Sさん(女性60代)は、慢性の再発性腰痛を訴えて来院された。30代にはじめてぎっくり腰をやって以来、再発する腰痛に悩まされてきた。病院や治療所を転々とし、改善と増悪を繰り返し、いまだ完治にいたっていない。日常生活の大半が腰痛との対峙に奪われ、いつ襲ってくるか分からない痛みのため、気軽にお友達とランチの約束もできないという。

痛みは、腰椎から骨盤への移行部、仙腸関節、整形外科(MRI)では、腰椎4番、5番間の椎間板にヘルニアを指摘されているが軽度でオペの段階ではない。

Sさんは、お洒落で好奇心旺盛で、よく気配りきく女性だ。パッと見、スリムで均整のとれたスタイルだが、ベットにうつ伏せになるとカラダの左右差が顕著だ。詳しく尋ねると成長期に突発性側弯症があったとのこと、女子に稀に見られる病気だ。

骨盤は土台、背骨は柱の構造をイメージしてほしい。もともと脊柱は生理的に緩やかなS字状のカーブを描くが、側弯症はこのカーブに捻りが加わり歪んだ状態だ。うつ伏せになると左右の背中の盛り上がり方が顕著に違う。柱が歪んでるため、構造的疲労が生じる。腰の疲労が慢性化し、腰椎へ負担が加わり続ければ、クッションの役目をしている椎間板はやがて破綻しヘルニアとなる。仙骨と寛骨で構成される骨盤では、接合部の仙腸関節に負担が加わり、アライメント(整合性)が崩れ仙腸関節性の腰痛となる。おそらく、そのような病態と推測した。それが慢性化し、再発を繰り返し、長期に渡るのだから、病態はもう少し複雑になっているだろう。

どこに行っても治らないなら大腰筋を疑え

体側から観た大腰筋(青色)

病院や治療所を転々としてきたのだから、どこでもできるようなことはやっているはず。それでも治らないのは、大腰筋へのアプローチが欠けているのだ。大腰筋とは、腰の深部筋で腰椎の前の方に付いている。腰椎から骨盤を通過し大腿骨へ付く筋肉で、役割としては太腿を上げる筋肉だ。陳旧性(慢性)の腰痛では、必ず悪くなっている。余談だが、ヒレ肉といえば柔らかくて上級なお肉の部位だが、あれが大腰筋である。ただし、四足歩行の動物と二足歩行の人間とでは大腰筋の役割がかなり違う。

触診するには、鼠径部で少し触るか、腹筋を緩めておいて、お腹の脇から内蔵を避けて触る必要がある。要するにまともに触れないのだ。この筋に唯一アプローチできるのが鍼だ。腰から3寸鍼(9センチ)を使って、6センチ程度刺入すれば、この筋に到達する。簡単に書いているが、ここに鍼ができる鍼灸師は、ほとんどいない。

Sさんの慢性腰痛は30年と年季が入っている。いくら大腰筋だと言っても、そうやすやすとは行かない。最初の頃は、一進一退を繰り返しながら、それでも治療に十分な手応えを感じたSさんは我慢強く通ってきた。
1年も経つ頃には、病状がかなり安定し、不確かなガラスの腰からSさんは開放され、人並みの日常生活を取り戻すことができるようになった。その後のSさんはアメリカに短期語学留学でひと月滞在したりと海外旅行もできるようになった。今でも月に一度はケアにいらっしゃる。側弯症のため構造的疲労は仕方がない。

もうしばらく大腰筋に鍼もしていない。重症度の高い患者さんと対峙するのはこちらも疲れるが、安定期に入りケアに来る患者さんほど気楽なものはない。お互い信頼関係もできているので、世間話でもしながら、お疲れをとってリセットしてあげればいい。

まとめ

当院では、肩こり、腰痛が来院患者の多くを占めます。その他にも神経痛、五十肩、むちうちなど運動器疾患の臨床実績が豊富です。これら整形外科のカテゴリに入る疾患に対しては解剖学的に診断し治療を行っています。そして鍼をミクロのメスに見立て、外科的な鍼治療を行うのが当院の特色です。オペの必要がない保存療法の段階では、最も積極的な治療がご提供できます。どこに行っても治らない運動器疾患でお困りの方は是非ご相談ください。

施術の詳細は『大腰筋の刺鍼法』をご参照ください。専門的な内容ですが腰痛の鍼治療について詳しく解説しています。また鍼灸師向けのセミナー動画ですが、実際の刺鍼も動画でご覧いただけます。(各ブログの最後にYoutube動画があります。)

この記事を書いた人

中野保
中野保

二天堂鍼灸院院長 / ほのしん講座代表

行岡鍼灸専門学校卒業後に北京堂鍼灸・浅野周先生に師事。2001年に独立し二天堂鍼灸院を開院。2007年に炎の鍼灸師・養成講座(現在のほのしん講座)を開校し、未来の鍼灸師の育成にも力を入れています。2018〜19年に 『医道の日本』誌に治療法連載。