こんにちは二天堂鍼灸院の中野です。
自律神経の調節機構がよくはたらかない病態を自律神経失調症といいます。その他、原因の特定できない病気には、必ずと言っていいほど自律神経が登場します。私たちもついつい患者さんに「自律神経がねぇ~・・・」なんて言いがちです。患者さんの方も「自律神経がおかしいと思うのですが・・・」なんて相談に見えます。しかし、はたして私たちは自律神経について、どれほどの事をちゃんと理解できているでしょうか。ここでは交感神経と副交感神経のバランスの変動がどういったタイミングで起こり、それによって私たちの身体の中でどういった変化が起きるのかを考えてみたいと思います。
自律神経の日内変動
自律神経には、日内変動や季節変動があることが知られています。
自律神経の日内変動とは、日中は交感神経の活動が高まり、夜は副交感神経の活動が高まるというバランスリズムのことです。
これは光刺激によるものです。私たちは昼行性の動物なので、日照時に活動します。
日中に交感神経活動が高まる仕組みは活動時の姿勢によるものです。体幹の固有背筋と体幹の交感神経系は脊髄反射を介して緊張レベルが同調する仕組みになっています。脊柱を支持している固有背筋は立位・座位の抗重力ポジションをとると自動的に緊張します。それと同時に交感神経系の活動も高まります。臥位になると固有背筋の緊張が解け、交感神経の活動も鎮静します。そして相対的に副交感神経の活動が高まります。
したがって、主に交感神経の活動状況により自律神経バランスのスイッチングは行われています。
現代人は、日没後も明るい照明の下で、スマホ、パソコン、ゲーム、テレビなどの光刺激に晒されています。これでは、交感神経が優位の体調になって当然です。その結果。休息の副交感神経が十分にはたらけないので、身体は疲弊していくばかりです。
とはいえ副交感神経系が積極的にはたらく場面もあります。食後、胃腸の活動が活発になるときです。胃腸の活動は副交感神経に依存しています。食後は副交感神経機能が亢進するため、眠たくなります。あるいは、ストレス状態(交感神経過緊張)の時に過食するのは、副交感神経活動を高めることで抵抗しているのです。泣くこともそうです。涙や鼻水、涎などの漿液性の外分泌は副交感神経系の活動によるものです。悲しい時や悔しい時、苦しい時に大泣きするのは、そうしたストレス状態からの生理的回避行動です。
自律神経の季節による変動
自律神経の季節による変動とは、冬は交感神経の活動が高まり、夏は副交感神経の活動が高まるというバランスリズムのことです。
これは寒暖の差によるものです。夏の方が汗をいっぱいかいてたくさんカロリーを消費しそうですが、実は安静時のカロリー消費については冬の方が高いのです。寒い季節は、身体の熱の産生量を上げて、体温を維持しなければなりません。昔のオートバイにはチョークレバーがついていて、運転前に冷えたエンジンをアイドリングを上げて温めていました。冬場の私たちの身体も同じです。交感神経の機能を亢進させて、基礎代謝を上げて、寒さに対処しています。
臨床では、鍼灸治療をしていると、副交感神経の反射として胃腸の蠕動運動が起こり、お腹がゴロゴロ鳴り出すことがよくあります。この腹鳴の出方が夏と冬では違います。副交感神経が亢進する夏は非常によく動きますが、交感神経が亢進する冬は少し大人しめです。
古典に記載されている鍼の刺法でも、季節によって刺入の深浅を述べていますが、自律神経のバランスによって体調が変化することが一つの要因ではないでしょうか。
余談ですが、南の温暖な地域の音楽と北の寒冷な地域の音楽を比較すると
南の温暖な地域⇒レゲエ、沖縄民謡
北の寒冷な地域⇒コサックダンス、津軽三味線
どうですか。明らかに南の音楽は脱力のビート。副交感ミュージックです。
北の音楽は前のめりのリズム。交感ミュージックです。
自律神経の天候による変動
自律神経の天候による変動とは、晴れの日は交感神経の活動が高まり、雨の日は副交感神経の活動が高まるというバランスリズムのことです。
これは気圧の影響によるものです。天候が崩れるタイミングで身体の不調や神経痛を訴えるケースがよくあります。
これも自律神経のバランスリズムからひも解くと納得がいきます。
そこで、話は季節に戻りますが、夏と冬ではどちらが高気圧でしょうか?
なんとなく高気圧というと夏というイメージですが、正解は冬です。
気圧が高いというのは、空気密度が濃いということです。つまり空気が重いのです。重い空気は冷たい空気です。冷房の空気は下に、暖房の空気は上にたまります。だから、寒い冬の空気の方が、気圧は高くなります。高気圧と低気圧は二つの空気の比較差で、値が定まっているわけではありません。
天気に置き換えると、
冷たい空気⇒高気圧⇒晴れ⇒交感神経活動が亢進
暖かい空気⇒低気圧⇒雨⇒副交感神経が亢進
蒸発した水分は水蒸気となって上昇するので暖かい軽い空気、低気圧の方に集まります。つまり、低気圧は雲を連れてきて雨を降らせるのです。私たちの祖先は、晴れた日に狩猟や採集に出て活発に行動し、雨の日は洞穴でじっと待機していたのではないでしょうか。
交感神経が緊張している時は、痛みの閾値レベルが上昇しています。(痛みに対しての耐性が強い。)低気圧が近づいてきて、気圧が下がりだすと、交感神経の活動が低下するので、痛みの閾値レベルも低下します。(痛みに対しての耐性が弱まる。)
つまり、天気が崩れるときに、体調の不調や痛みを訴える人は、交感神経亢進⇒副交感神経亢進へ移行するタイミングで症状が出るのです。そして、気圧が安定すると、自律神経のバランスも安定します。ちなみに、天気が回復に向かうときは、副交感神経亢進⇒交感神経亢進なので、パフォーマンスが向上します。
交感神経機能が亢進している状態は、スーパーサイヤ人なのです。パフォーマンスは向上して、攻撃力も防御力も上がっていますが、消耗が激しいのです。だから、副交感神経タイムが必要なのです。ちゃんと休息して、パワーレベルを回復しないと、再びスーパーサイヤ人にはなれません。東洋医学的に言うところの陰陽消長です。
自律神経の免疫に及ぼす役割
自律神経の免疫に及ぼす役割とは、交感神経が亢進している時は顆粒球が増加し、副交感神経が亢進している時はリンパ球が増加する白血球支配のことです。
白血球にはマクロファージと顆粒球とリンパ球があります。健康な状態のときの白血球成分は以下の割合になります。
マクロファージ 5%
顆粒球 60%
リンパ球 35%
マクロファージと顆粒球は、細菌に対する免疫を、リンパ球はウイルスに対する免疫を担当しています。自然界の中で活発に行動していたときは、外傷による細菌の侵入に備える必要がありました。交感神経亢進と顆粒球増加の免疫システムは理にかなっていたわけです。一方、ウイルスに感染した場合は、活動を休止して安静にしているので、ここでは副交感神経亢進とリンパ球増加の免疫システムに交替するように仕組化されたのです。
免疫システムが発動すると身体の中で炎症が起こります。顆粒球の炎症は膿が出る「化膿性の炎症」が特徴です。リンパ球の炎症は漿液(さらさらした液体)が出る「カタル性の炎症」が特徴です。例えば、風邪のときのポタポタと垂れる鼻水はリンパ球の炎症で、色のついたドロッとした鼻液は顆粒球の炎症です。花粉症の鼻づまりや涙もカタル性の炎症です。
交感神経が優位になり、顆粒球が増えすぎると、常在菌にちょっかいを出したり、いらないところで組織破壊をしたり、炎症症状を引き起こしやすくなります。
副交感神経が優位になり、リンパ球が増えすぎると、無害な抗原に過剰反応を起こすアレルギー疾患が起こりやすくなります。その代表が花粉症ですね。
交感神経 亢進 | 昼立位・座位 | 冬消費カロリ↑ | 晴高気圧 | 顆粒球化膿性炎症 |
副交感神経亢進 | 夜臥位 | 夏消費カロリ↓ | 雨低気圧 | リンパ球カタル性炎症 |