ほのしん講座

難経・解読
疾病篇

このページでは全六篇で構成される難経の疾病篇(四十八難〜六十一難)の原文と翻訳を掲載しています。
翻訳・解説した人
中野 保
二天堂鍼灸院 院長
行岡鍼灸専門学校卒業後に北京堂鍼灸・浅野周先生に師事。2001年に独立し二天堂鍼灸院を開院。2007年に炎の鍼灸師・養成講座(現在のほのしん講座)を開校し、未来の鍼灸師の育成にも力を入れています。2018〜19年に 『医道の日本』誌に治療法連載。
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鍼治療の学術書を出版しました

『鍼治療の醍醐味を知れば誰だって鍼の虜(とりこ)になるはず!』
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第四十八難

四十八難曰:人有三虚三実、何謂也?

然。有脈之虚実、有病之虚実、有診之虚実也。脈之虚実者、濡者為虚、緊牢者為実。病之虚実者、出者為虚、入者為実。言者為虚、不言者為実。緩者為虚、急者為実。診之虚実者、濡者為虚、牢者為実。痒者為虚、痛者為実。外痛内快為外実内虚、内痛外快為内実外虚。故曰虚実也。

翻訳文

四十八難曰く:人には三虚三実があるといいますが、何のことですか?

それは~。脈の虚実、病気の虚実、診察の虚実のことです。脈の虚実とは、濡脈であれば虚であり、緊脈、牢脈であれば実です。病気の虚実とは、外へ精気が出たものを虚、外から邪気が入ったものを実とします。他にも、※しゃべれる人は虚、しゃべれない人は実です。慢性の疾患は虚、急性の疾患は実です。診察の虚実とは、按圧して軟らかければ虚、硬ければ実です。※また痒いものは虚、痛むものは実です。外に疼痛があり、内は痛まないものを外実内虚といい、内に疼痛があり、外は痛まないものを内実外虚といいます。これが三虚三実です。

※原文には「言者為虚、不言者為実」とあります。ここは言語障害の有無について述べています。つまり、慢性の疾患では言語障害に陥ることはありませんが、急性の疾患(脳卒中、喘息発作等)では言語障害に陥る場合があります。
※原文には「痒者為虚、痛者為実」とあります。血虚で肌肉が充分に栄養されないと痒くなります。邪気が集まって、栄衛不和(栄衛が協調しない状態)となると痛みます。

第四十九難

四十九難曰:有正経自病、有五邪所傷、何以別之?

然。憂愁思慮則傷心。形寒飲冷則傷肺。恚怒気逆、上而不下、則傷肝。飲食労倦則傷脾。久坐湿地、強力、入水則傷腎。是正経之自病也。

何謂五邪?

然。有中風、有傷暑、有飲食労倦、有傷寒、有中湿、此之謂五邪。

仮令心病、何以知中風得之?

然。其色当赤。

何以言之?

肝主色、自入為青、入心為赤、入脾為黄、入肺為白、入腎為黒。肝為心邪、故知当赤色。其病、身熱、脇下満痛、其脈浮大而弦。

何以知傷暑得之?

然。当悪臭。

何以言之?

心主臭、自入為焦臭、入脾為香臭、入肝為臊臭、入腎為腐臭、入肺為腥臭。故知、心病傷暑得之、当悪臭。其病、身熱而煩心痛。其脈浮大而散。

翻訳文

四十九難曰く:病気には、経脈そのものが病んでいる場合と、五邪に犯されて病んでいる場合とがありますが、どう区別するのですか?

先に正経自病から説明しましょう。憂愁、思慮が過度にすぎれば心を傷めます。身体を冷やしたり、冷たいものを摂りすぎると肺を傷めます。恨みや怒りで頭に血が上り、気が上昇しっぱなしだと、肝を傷めます。食事の不摂生や過労では脾を傷めます。長い時間、濡れた格好のままでいたり、重い物を持上げて、無理に腰へ力を入れたり(ギックリ腰のことだろうね)、水に入って冷やしたりすると、腎を傷めます。以上が十二経脈の自病といわれるものです。

次に五邪をどう区別するのか、教えてください。

わかりました。風邪に犯されたもの。暑邪に犯されたもの。飲食労倦で病んだもの。寒邪に犯されたもの。湿邪に犯されたもの。これら五邪で区別します。

例えば心の病の場合、風邪に犯されたと、どうして判るのですか?

はい。顏色が赤くなります。

その理由は何ですか?

肝は色を主ります。風邪が肝に入ると青くなります。心では赤、脾では黄、肺では白、腎では黒です。つまり肝邪(=風邪)が心を犯すと、顏色が赤くなるのです。他にも、身熱があり、脇の下が張って痛み、脈は浮大で弦になります。

それでは、心が暑邪に犯されると、どうなりますか?

はい。悪臭がします。

その理由は何ですか?

心は臭を主ります。暑邪が心に入ると焦げ臭い、脾では香ばしい、肝では臊(あぶら)くさい、腎では腐れくさい、肺では腥(なま)ぐさい体臭があります。だから暑邪が心を犯すと、焦げ臭い体臭がするのです。他にも、身熱があり、胸が痛くて悶え、脈は浮大で散になります。

暑邪が臓に入ると、その熱で臓が燻蒸され、その臓特有の匂いを発するように思います。臨床や日常で考えてみると、例えば、腎は髄を主り、髄が弱ると歯槽膿漏になりますよね。歯槽膿漏の口臭は腐れくさいですよね。また肺の場合、思いっきり走って、呼吸がゼイゼイなった時、血なまぐさいにおいがしますよね。

何以知飲食労倦得之?

然。当喜苦味也。(虚為不欲食、実為欲食)

何以言之?

脾主味、入肝為酸、入心為苦、入肺為辛、入腎為鹹、自入為甘。故知、脾邪入心、為喜苦味也。其病、身熱而体重嗜臥、四肢不收、其脈浮大而緩。

何以知傷寒得之?

然。当譫言妄語。

何以言之?

肝主色、自入為青、入心為赤、入脾為黄、入肺為白、入腎為黒。肝為心邪、故知当赤色。其病、身熱、脇下満痛、其脈浮大而弦。

何以知中湿得之?

然。当喜汗出不可止。

何以言之?

腎主湿、入肝為泣、入心為汗、入脾為涎、入肺為涕、自入為唾。故知、腎邪入心、為汗出、不可止也。其病、身熱而小腹痛、足脛寒而逆。其脈沈濡而大。此五邪之法也。

翻訳文

それでは、心が飲食労倦によって病むと、どうなりますか?

はい。苦味のものを好んで食します。(虚では、食欲不振になり、実では、食欲過剰になります)

その理由は何ですか?

脾は味を主ります。飲食労倦の邪が肝に入ると酸味のものを好んで食します。心では苦味、肺では辛味、腎では鹹(しおからい)味、脾では甘味です。だから脾邪(=飲食労倦)が心に入ると、苦味のものを好んで食します。他にも、身熱があり、身体が重く、すぐ横になりたがり、四肢の運動もままなりません。脈は浮大で緩になります。

それでは、心が寒邪に犯されると、どうなりますか?

はい。譫妄(意識混濁のうわ言)があります。

その理由は何ですか?

肺は声を主ります。寒邪が肝に入ると、よく叫びます。心ではうわ言をいう、脾では歌う、腎では呻く、肺では泣きます。だから肺邪(=寒邪)が心に入ると、譫妄するのです。他にも、身熱があり、悪寒し、ひどくなると咳が出ます。脈は浮大で渋となります。

それでは、心が湿邪に犯されると、どうなりますか?

はい。よく汗が出て、止まりません。

その理由は何ですか?

腎は水を主ります。湿邪が肝に入ると、涙が出ます。心では汗、脾では涎(よだれ)、肺では涕(はなみず)、腎では唾が出ます。だから腎邪(=湿邪)が心に入ると、汗が出て、止まらないのです。その他にも、身熱があり、下腹部が痛み、足が冷えます。脈は沈濡で大となります。以上が五邪の病です。

第五十難

五十難曰:病有虚邪、有実邪、有賊邪、有微邪、有正邪、何以別之?

然。従後来者、為虚邪。従前来者、為実邪。従所不勝来者、為賊邪。従所勝来者、為微邪。自病者、為正邪。

何以言之?

仮令心病。中風得之、為虚邪。傷暑得之、為正邪。飲食労倦得之、為実邪。傷寒得之、為微邪。中湿得之、為賊邪。

翻訳文

五十難曰く:病には虚邪、実邪、賊邪、微邪、正邪とありますが、どう区別するのですか?

それは~。相生関係において母から来たものを虚邪といい、子から来たものを実邪といいます。相剋関係において自分が剋されている所から来たものを賊邪といい、自分が剋している所から来たものを微邪という。自らの邪で病んだ場合は正邪といいます。

例をあげて下さい。

例えば心病の場合、母の風邪(肝邪)に犯されたならば虚邪であり、自らの暑邪(心邪)に犯されたならば正邪であり、子である飲食労倦(脾邪)に犯されたならば実邪であり、火が剋している金の寒邪(肺邪)に犯されたならば微邪であり、火が剋されている水の湿邪(腎邪)に犯されたならば賊邪であります。

第五十一難

五十一難曰:病、有欲得温者、有欲得寒者、有欲得見人者、有不欲得見人者、而各不同、病在何臓腑也?

然。病欲得寒而欲見人者、病在腑也。病欲得温而不欲得見人者、病在臓也。

何以言之?

腑者陽也、陽病欲得寒又欲見人。臓者陰也、陰病欲得温、又欲閉戸独処、悪聞人声。故以別知臓腑之病也。

翻訳文

五十一難曰く:病人には、温めて欲しがる人と、冷やして欲しがる人がいます。また、人に会いたがる人と、会いたがらない人がいます。このような場合、病は臓と腑のどちらにあるのですか?

それは~。冷やして欲しがったり、人に会いたがる患者は、病が腑にあります。温めて欲しがったり、人に会いたがらない患者は、病が臓にあります。

どうしてですか?

腑は陽ですね。陽熱の病では、冷やして欲しがるし、人に会いたがるものです。臓は陰ですね。陰寒の病では、温めて欲しがるし、人の声を嫌い、門戸を閉ざし独りで居たがるものです。以上で臓腑の病が区別できるのです。

第五十二難

五十二難曰:腑臓発病、根本等不?

然。不等也。

其不等、奈何?

然。臓病者、止而不移、其病不離其処。腑病者、彷彿、賁響、上下行流、居処無常。故以此知臓腑根本不同也。

翻訳文

五十二難曰く:腑病と臓病の発病は、同じ原因ですか?

いいえ。違います。

その違いとは何ですか?

それは~。臓病は、止まって動かず、一所を離れません。腑病は、所在がはっきりせず、※ごろごろと鳴り響き、上下へ移動し、固定していません。だから臓病と腑病の発病原因は違うといえるのです。

※原文は賁響。腸蠕動運動などに伴う、ごろごろとした腹鳴のことを指す。

第五十三難

五十三難曰:経言、七伝者死、間臓者生。何謂也?

然。七伝者、伝其所勝也。間臓者、伝其子也。

何以言之?

仮令、心病伝肺、肺伝肝、肝伝脾、脾伝腎、腎伝心。一臓不再傷、故言七伝者死也。 仮令、心病伝脾、脾伝肺、肺伝腎、腎伝肝、肝伝心。是母子相伝、竟而復始、如環無端、故言生也。

翻訳文

五十三難曰く:内経に「七伝は死に、間臓は生きる」とありますが、どういうことですか?

それは~。七伝は相剋関係において、剋す所へと病邪が伝わります。間臓は相生関係において、子へと病邪が伝わります。

どのように伝わるのですか?

例えば七伝の場合、心病は肺に伝わり、肺→肝→脾→腎→心と伝わります。そして発病した臓が再び病邪に傷つけられることはありません。なぜならその時を七伝といい、死を意味するからです。(だから相剋で、剋しているものから来た邪は賊邪と呼ばれ、きつい病状なのです。) 間臓の場合、心病は脾に伝わり、脾→肺→腎→肝→心と伝わります。でも、これは母から子へと伝わり、終わっても再び始まる、連続する環のようなものです。だから予後良好なのです。〔五十難参照〕

第五十四難

五十四難曰:臓病難治、腑病易治、何謂也?

然。臓病所以難治者、伝其所勝也。腑病易治者、伝其子也。与七伝間臓同法也。

翻訳文

五十四難曰く:五臓病は難治で、六腑病は治りやすいといいますが、なぜですか?

それは~。五臓病が治りにくいのは、伝わる所が、相剋関係の自分を剋している強者だからです。六腑病が治りやすいのは、伝わる所が、相生関係の子だからです。つまり五十三難の七伝・間藏の法則と同じことです。

第五十五難

五十五難曰:病有積有聚、何以別之?

然。積者陰気也、聚者陽気也。故、陰沈而伏、陽浮而動。気之所積、名曰積。気之所聚、名曰聚。故積者五臓所生、聚者六腑所成也。積者陰気也、其始発有常処、其痛不離其部、上下有所終始、左右有所窮処。聚者陽気也、其始発無根本、上下無所留止、其痛無常処、謂之聚。故以是別知積聚也。

翻訳文

五十五難曰く:病には積病と聚病がありますが、どう鑑別するのですか?

それは~。積病は陰気の病で、聚病は陽気の病として鑑別します。陰気は裏に沈んで、潜伏します。陽気は表に浮いて、移動します。陰気が積もったものを積病といい、陽気が集まったものを聚病といいます。だから積病は五臓に生まれ、聚病は六腑にできます。積病は陰気が積もった病なので、発生部位は固定しており、痛みもそこから動きません。上下左右の境界もはっきりしています。聚病は陽気が集まった病なので、発生部位に根本がなく、上下に動きます。したがって痛む場所も固定していません。以上をもって、積病と聚病の鑑別をするのです。

第五十六難

五十六難曰:五臓之積、各有名乎?以何月何日得之?

然。肝之積、名曰肥気、在左脇下、如覆杯、有頭足。久不愈、令人発咳逆瘧、連歳不已。以季夏戊己日得之。

何以言之?

肺病伝於肝、肝当伝脾、脾季夏適王、王者不受邪、肝復欲還肺、肺不肯受、故留結為積、故知肥気以季夏戊己日得之。

翻訳文

五十六難曰く:五臓の積病は、それぞれ何と呼ばれていますか?また、その病は何月何日にかかりやすいのですか?

それは~。肝の積病は肥気と呼ばれ、左脇下に、盃(さかずき)を伏せたような、上下の境界明瞭なしこりがあらわれます。なかなか治癒せず、病人は咳嗽、気逆、瘧疾などの症状がでて、年を重ねても良くなりません。この病は夏の戊己日にかかりやすいです。

なぜですか?

肺病は肝に伝わります。次に肝は脾にその病邪を伝えようとしますが、夏は脾気が旺盛なため、その邪をはねかえされてしまいます。そこで肝は再び肺に病邪を返そうとしますが、肺も受けつけません。そのため病邪は肝に留まり、しこりとなって、積病となるのです。だから肥気は夏の土に属す戊己日に発病しやすいのです。
心之積、名曰伏梁、起臍上、大如臂、上至心下。久不愈、令人病煩心。以秋庚辛日得之。

何以言之?

腎病伝心、心当伝肺、肺以秋適王、王者不受邪、心欲復還腎、腎不肯受、故留結為積、故知伏梁以秋庚辛日得之。

翻訳文

心の積病は伏梁と呼ばれ、臍上から心下部にかけて、腕の太さくらいのしこりができます。なかなか治癒せず、病人は心下部が煩悶します。この病は秋の庚辛日にかかりやすいです。

なぜですか?

腎病は心に伝わります。次に心は肺にその病邪を伝えようとしますが、秋は肺気が旺盛なため、その邪をはねかえされてしまいます。そこで心は再び腎に病邪を返そうとしますが、腎も受けつけません。そのため病邪は心に留まり、しこりとなって、積病となるのです。だから伏梁は秋の金に属す庚辛日に発病しやすいのです。
脾之積、名曰痞気、在胃脘、覆大如盤。久不愈、令人四肢不收、発黄疸、飲食不為肌膚。以冬壬癸日得之。

何以言之?

肝病伝脾、脾当伝腎、腎以冬適王、王者不受邪、脾復欲還肝、肝不肯受、故留結為積、故知痞気以冬壬癸日得之。

翻訳文

脾の積病は痞気と呼ばれ、胃の中央に、碗(わん)を伏せたような、しこりがあらわれます。なかなか治癒せず、病人は四肢の運動がままならず、黄疸がでて、いくら食べても太れません。この病は冬の壬癸日にかかりやすいです。

なぜですか?

肝病は脾に伝わります。次に脾は腎にその病邪を伝えようとしますが、冬は腎気が旺盛なため、その邪をはねかえされてしまいます。そこで脾は再び肝に病邪を返そうとしますが、肝も受けつけません。そのため病邪は脾に留まり、しこりとなって、積病となるのです。だから痞気は冬の水に属す壬癸日に発病しやすいのです。
肺之積、名曰息賁、在右脇下、覆大如杯。久不已、令人洒淅寒熱喘欬、発肺壅。以春甲乙日得之

何以言之?

心病伝肺、肺当伝肝、肝以春適王、王者不受邪、肺復欲還心、心不肯受、故留結為積、故知息賁以春甲乙日得之。

翻訳文

肺の積病は息賁と呼ばれ、右脇下に、盃を伏せたような、しこりがあらわれます。なかなか良くならず、病人は身体が冷えきって、悪寒、発熱、咳の症状があります。また肺結核や肺がんのこともあります。この病は春の甲乙日にかかりやすいです。

なぜですか?

心病は肺に伝わります。次に肺は肝にその病邪を伝えようとしますが、春は肝気が旺盛なため、その邪をはねかえされてしまいます。そこで肺は心に病邪を返そうとしますが、心も受けつけません。そのため病邪は肺に留まり、しこりとなって、積病となるのです。だから息賁は春の木に属す甲乙日になりやすいのです。
腎之積、名曰賁豚、発於少腹、上至心下、若豚状、或上或下、無時。久不已、令人喘逆、骨痿、少気。以夏丙丁日得之。

何以言之?

脾病伝腎、腎当伝心、心以夏適王、王者不受邪、腎復欲還脾、脾不肯受、故留結為積、故知賁豚以夏丙丁日得之。此是五積之要法也。

翻訳文

腎の積病は賁豚と呼ばれ、下腹部に発して、そこから心下部までを、子豚が走るように、上下に行ったり来たり、時を無くして移動します。なかなか良くならず、病人はゼイゼイと喘ぎ、足腰も弱ってしまい(骨痿)、呼吸も浅くなります(少気)。この病は夏の丙丁日にかかりやすいです。

なぜですか?

脾病は腎に伝わります。次に腎は心にその病邪を伝えようとしますが、夏は心気が旺盛なため、その邪をはねかえされてしまいます。そこで腎は脾に病邪を返そうとしますが、脾も受けつけません。そのため病邪は腎に留まり、しこりとなって、積病となるのです。だから賁豚は夏の脾に属す丙丁日に発病しやすいのです。以上が五臓の積病に対する診断方法です。

第五十七難

五十七難曰:泄凡有幾?皆有名不?

然。泄凡有五、其名不同。有胃泄。有脾泄。有大腸泄。有小腸泄。有大瘕泄、名曰後重。 胃泄者、飲食不化、色黄。 脾泄者、腹脹満泄注、食即嘔吐逆。 大腸泄者、食已窘迫、大便色白、腸鳴切痛。 小腸泄者、溲而便膿血、少腹痛。 大瘕泄者、裏急後重、数至厠而不能便、茎中痛。此五泄之法也。

翻訳文

五十七難曰く:下痢には、一般的にどれくらいの種類があるのですか?またそれらには、すべて名前があるのですか?

それは~。下利には一般的に五種類あり、名前も違います。胃泄、脾泄、大腸泄、小腸泄、大瘕泄があり、大瘕泄は後重とも呼ばれています。 胃泄は、消化不良で、食物残渣の多い黄色い便が出ます。 脾泄は、腹部に膨満感があり、水様便が出ます。食後すぐに嘔吐しそうになります。 大腸泄は、食後すぐに便意をもよおし、腹鳴と共にキリキリ痛み、白っぽい便が出ます。 小腸泄は、排便に膿血が混じり、下腹部が痛みます。 大瘕泄者は、裏急後重(渋り腹:便意の迫った感がありながら、実際はなかなか通じがない症状)があり、何度も厠(トイレ)に立つが排便できず、陰茎が痛みます。これが五種類の下痢の症状です。

第五十八難

五十八難曰:傷寒有幾?其脈有変否?

然。傷寒有五。有中風、有傷寒、有湿温、有熱病、有温病、其所苦、各不同。 中風之脈、陽浮而滑、陰濡而弱。湿温之脈、陽浮而弱、陰小而急。傷寒之脈、陰陽倶盛而緊渋。熱病之脈、陰陽倶浮、浮之而滑、沈之散渋。温病之脈、行在諸経、不知何経之動也。各隨其経所在而取之。

傷寒、有汗出而愈、下之而死者。有汗出而死、下之而愈者。何也?

然。陽虚陰盛、汗出而愈、下之即死。陽盛陰虚、汗出而死、下之而愈。

寒熱之病、候之如何也?

然。皮寒熱者、皮不可近席、毛髮焦、鼻藁不得汗。肌寒熱者、皮膚痛、唇舌藁無汗。骨寒熱者、病無所安、汗注不休、歯本藁痛。

翻訳文

五十八難曰く:傷寒病には、何種類あるのですか?また、それらの脈状は各々違うのですか?

それは~。傷寒病には五種類あります。中風、傷寒、湿温、熱病、※温病であり、その症状は各々違います。 中風の脈状は、寸口で浮・滑であり、尺中で濡・弱です。湿温の脈状は、寸口で浮・弱であり、尺中で小・急です。傷寒の脈状は、寸口、尺中ともに力があり、緊・渋です。熱病の脈状は、寸口、尺中ともに浮で、浮かせて診ると滑、沈めて診ると散・渋です。温病の場合、病邪は各経脈に散らばって行くので、どの経脈に病変があるかを脈診では判断できません。だからどの経脈に病邪があるかは、その経脈に該当する部位の脈を取って判断するのです。

傷寒病では、発汗させると治癒し、下すと死亡する場合。発汗させると死亡し、下すと治癒する場合がありますが、なぜですか?

それは~。陽虚陰盛ならば、発汗させれば治癒しますが、排便させると死亡します。陽盛陰虚ならば、発汗させれば死亡しますが、排便させると治癒します。

悪寒、発熱の病では、どのような症状が診られますか?

それは~。皮毛に寒熱がある場合、皮膚が火照って座れなくなります。頭髪に潤いがなくバサバサし、鼻の中が※乾燥して、カサカサになります。肌肉に寒熱がある場合、筋肉に疼痛があり、口唇、舌が乾燥して、カラカラになります。骨に寒熱がある場合、全身に不快感があり、汗が吹き出て止まらず、歯茎は痩せ衰えて痛みます。

※温は熱の穏やかなものであり、熱は温の甚だしいものであります。両者には程度の差こそあれ、本質的な相違点はありません。したがって、温と熱とは併せて呼ばれる場合が多いのです。また清の時代の温病学において温邪というときは、温熱邪気の総称として用いられ、温と熱との間には程度上の区別さえつけていません。

※原文には「藁(わら)」とあります。この字には枯れるという意味があります。

第五十九難

五十九難曰:狂癲之病、何以別之?

然。狂疾之始発、少臥而不饑、自高賢也、自辨智也、自倨貴也、妄笑好歌楽、妄行不休是也。癲疾始発、意不楽、僵仆直視。其脈三部陰陽倶盛是也。

翻訳文

五十九難曰く:狂病と癲病の鑑別はどうするのですか?

それは~。狂病になると、少ししか眠らず、お腹も空かなくなります。自らを高尚で賢いと思い込み、弁がたち、聡明だと思い込み、傲慢になり、自分を高貴だと思い込むようになります。よく笑い、歓喜して歌い、休むことなくでたらめに歩き回ります。癲病になると、気分がふさぎこみ、突然卒倒して、一点を直視したまま目がすわります。狂病の脈状は寸関尺ともに浮取で有力、癲病の脈状は寸関尺ともに沈取で有力です。

第六十難

六十難曰:頭心之病、有厥痛、有真痛、何謂也?

然。手三陽之脈、受風寒、伏留而不去者、則名厥頭痛。 入連在脳者、名真頭痛。 其五臓気相干、名厥心痛。 其痛甚、但在心、手足青者、即名真心痛。其真頭心痛者、旦発夕死、夕発旦死。

翻訳文

六十難曰く:頭と心の病気には、厥痛と真痛がありますが、どういう意味ですか?

それは~。手の少陽三焦経、陽明大腸経、太陽小腸経に風寒の邪を受けて、その邪気が経脈に潜伏滞留し、去らなければ、頭痛が起こります。これが厥頭痛です。更に深く侵入し、脳中に連なれば、真頭痛と呼ばれます。五臓の経気が逆流し、乱れて起きた心痛が、厥心痛です。その疼痛が甚だしく、心臓に限局して痛み、手足にチアノーゼをきたしていれば、真心痛です。※真頭痛と真心痛はともに危うく、朝に発作が起きたものは、その日の夕方には亡くなり、夕方に発作が起きたものは、次の日の朝には亡くなるでしょう。

※真頭痛と真心痛は、現代でいう脳卒中と心筋梗塞と考えられる。

第六十一難

六十一難曰:経言、望而知之謂之神、聞而知之謂之聖、問而知之謂之工、切脈而知之謂之巧、何謂也?

然。望而知之者、望見其五色、以知其病。 聞而知之者、聞其五音、以別其病。 問而知之者、問其所欲五味、以知其病所、起所在也。 切脈而知之者、診其寸口、視其虚実、以知其病、病在何臓腑也。 経言、以外知之曰聖、以内知之曰神、此之謂也。

翻訳文

六十一難曰く:内経には「望んでこれを知る者を神といい、聞いてこれを知る者を聖といい、問うてこれを知る者を工といい、切してこれを知る者を巧という」とありますが、どういうことですか?

それは~。望んで知るとは、患者の顏色に表れる、青、赤、黄、白、黒の五色を望診し、病気の情況を判断することです。聞いて知るとは、患者の声に表れる、呼、言、歌、哭、呻の五声を聞診し、病気の性質を判断することです。問うて知るとは、患者の欲する味、酸、苦、甘、辛、鹹を問診して、病気の原因と場所を判断することです。切脈をして知るとは、患者の寸口の脈を診て、病気の虚実を知り、それによって、病気の勢いと発病した臓腑を判断することです。 他にも内経には「外を以ってこれを知る者を聖といい、内を以ってこれを知る者を神という」とあります。(ここでは患者の外部の症状を診て、病気を診断する者を聖といい、患者の外部に症状が表れる前に、微細な変化を読み取り、すでに内部に病変があることを診断する者を神といっている)

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