ほのしん講座

難経・解読
経絡篇

このページでは全六篇で構成される難経の第二篇、経絡学(二十三難〜二十九難)の原文と翻訳を掲載しています。
翻訳・解説した人
中野 保
二天堂鍼灸院 院長
行岡鍼灸専門学校卒業後に北京堂鍼灸・浅野周先生に師事。2001年に独立し二天堂鍼灸院を開院。2007年に炎の鍼灸師・養成講座(現在のほのしん講座)を開校し、未来の鍼灸師の育成にも力を入れています。2018〜19年に 『医道の日本』誌に治療法連載。
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第二十三難

二十三難曰:手足三陰三陽、脈之度数、可暁以不?

然。手三陽之脈、従手至頭、長五尺、五六合三丈。手三陰之脈、従手至胸中、長三尺五寸、三六一丈八尺、五六三尺、合二丈一尺。足三陽之脈、従足至頭、長八尺、六八四丈八尺。足三陰之脈、従足至胸、長六尺五寸、六六三丈六尺、五六三尺、合三丈九尺。人両足蹻脈、従足至目、長七尺五寸、二七一丈四尺、二五一尺、合一丈五尺。督脈任脈、各長四尺五寸、二四八尺、二五一尺、合九尺。凡脈長一十六丈二尺、此所謂十二経脈長短之数也。

経脈十二、絡脈十五、何始何窮也?

然。経脈者、行血気通陰陽、以栄於身者也。其始従中焦注手太陰陽明、陽明注足陽明太陰、太陰注手少陰太陽、太陽注足太陽少陰、少陰注手心主少陽、少陽注足少陽厥陰、厥陰復還注手太陰。別絡十五、皆因其原。如環無端、転相灌漑、朝於寸口人迎、以処百病、而決死生也。

経云。明知終始、陰陽定矣、何謂也?

然。終始者、脈之紀也。寸口人迎、陰陽之気通於朝使、如環無端、故曰始也。終者、三陰三陽之脈絶、絶則死、死各有形、故曰終也。

翻訳文

二十三難曰く:手足三陰三陽の経脈の長さはどれくらいあるのですか?

それは~。手三陽の経脈(大腸、小腸、三焦)は手から頭まで5尺、左右合わせると5×6=30で3丈です。手三陰の経脈(肺、心、心包)は手から胸中まで3尺5寸、3×6=18で1丈8尺、0.5×6=3で3尺、合わせて2丈1尺です。足三陽の経脈(胃、膀胱、胆)は足から頭まで8尺、8×6=48で4丈8尺です。足三陰の経脈(脾、腎、肝)は足から胸まで6尺5寸、6×6=36で3丈6尺、0.5×6=3で3尺、合わせて3丈9尺です。陰蹻脈は足から目まで7尺5寸、2×7=14で1丈4尺、2×0.5=1尺、合わせて1丈5尺です。督脈と任脈はそれぞれ4尺5寸で、2×4=8で8尺、2×0.5=1で1尺、二つ合わせて9尺です。すべての合計16丈2尺、これが十二経脈の全長です。

それでは十二経脈と十五絡脈は、どこから始まりどこに終わるのですか?

それは~。経脈は気血を循環させ、陰陽を通行させ、全身に栄養を行きわたらせます。中焦より起こり、手太陰肺経→手陽明大腸経→足陽明胃経→足太陰脾経→手少陰心経→手太陽小腸経→足太陽膀胱経→足少陰腎経→手厥陰心包経→手少陽三焦経→足少陽胆経→足厥陰肝経と巡って手太陰肺経へと戻ります。十五別絡もすべて十二経脈に随行し、その起源を同じくするものです。そして終点なく環状に巡り、全身を灌漑して寸口、人迎へと集まります。したがって寸口・人迎の脈診で、病気の状態や予後を診断できるのです。

では内経に「脈気の終始を明らかにすれば、陰陽各経脈の気の状態が判断できる」とありますが、どういうことですか?

はいそれは~。脈気の終始を知ることは脈診の基本です。始から説明しましょう。寸口と人迎は手太陰肺経の脈打つ所であり、人体で陰陽の気が集中する所であります。そして再びここから全身へと終わりのないリングのように脈気は循環します。これを脈気の開始というのです。 次に終ですが、これは三陰三陽経の脈気が経脈で尽きた状態です。脈気が途絶えれば死にます。各経脈によって死の徴候はそれぞれですが、これは死を意味します。だから脈気の終止というのです。

第二十四難

二十四難曰:手足三陰三陽気已絶、何以為候?可知其吉凶不?

足太陰気絶、則脈不営其口唇。口唇者、肌肉之本也。脈不営則肌肉不滑沢、肌肉不滑沢則肉満、肉満則唇反、唇反則肉先死。甲日篤、乙日死。

足厥陰気絶、即筋縮引卵与舌巻。厥陰者、肝脈也。肝者、筋之合也。筋者、聚於陰器而絡於舌本。故脈不営則筋縮急、筋縮急即引卵与舌。故舌巻卵縮、此筋先死。庚日篤、辛日死。

手太陰気絶、即皮毛焦。太陰者、肺也、行気温於皮毛者也。気弗営則皮毛焦、皮毛焦、則津液去、津液去即皮節傷、皮節傷則皮枯毛折、毛折者則毛先死。丙日篤、丁日死。

手少陰気絶則脈不通、脈不通則血不流、血不流則色沢去、故面黒如黧、此血先死。壬日篤、癸日死。

三陰気倶絶者則目眩転目瞑、目瞑者為失志、失志者則志先死、死即目瞑也。 六陽気倶絶者則陰与陽相離、陰陽相離則腠理泄、絶汗乃出、大如貫珠、転出不流、即気先死。旦占夕死、夕占旦死。

翻訳文

二十四難曰く:手足の三陰三陽の脈気が絶えると、どのような症状があらわれますか?またその吉凶を知ることはできるのですか?

それは~。足少陰腎経の脈気が絶えると、※骨枯となります。足少陰腎経は冬の経脈であり、深く潜行して骨髓を温めています。だからその脈気が絶えると骨髓が温まらず、骨に筋肉が付着しません。骨と筋肉が離れると、筋肉は力が抜けて萎縮します。そうなると歯茎は枯れ、歯が長くなったように見え、頭髪にも光沢がなくなります。これは死の前兆です。この種の病気では戊日に重篤となり、己日には亡くなるでしょう。
※『素問:痿論』では「骨枯」を「則骨枯而髓虚、故足不任身、発為骨痿」とあります。つまり足が弱って、身体を支えられなくなった状態をいいます。

足太陰脾経の脈気が絶えると、口唇が栄養されなくなります。口唇は肌肉の状態を表します。足太陰脾経の経脈が肌肉を栄養できなくなると、肌肉の潤いや光沢が失われます。そうなると口唇周囲の肉が腫れ、やがて唇がめくれあがってくるでしょう。これは死の前兆です。この種の病気では甲日に重篤となり、乙日には亡くなるでしょう。

足厥陰肝経の脈気が絶えると、筋肉が収縮し、睾丸がひっぱられ、舌も巻きあがります。足厥陰は肝の経脈であり、肝は筋肉を司っています。その経脈は生殖器に集まり、舌根に連なっています。だから脈気が絶えて栄養できなくなると、筋肉が収縮して引き攣ります。そうなると睾丸と舌もひっぱられ、舌が巻きあがり、睾丸も縮みあがってしまいます。これは死の前兆です。この種の病気では庚日に重篤となり、辛日には亡くなるでしょう。

手太陰肺経の脈気が絶えると、皮膚や体毛がパサパサになります。手太陰は肺に属し、気を巡らして皮毛を温めています。だから脈気が絶えて栄養できなくなると、皮膚と体毛はパサパサになるのです。そうすると津液は失われ、皮膚ばかりか関節も傷めやすくなります。最後には皮膚はガサガサになり、体毛も切れてしまいます。これは死の前兆です。この種の病気では丙日に重篤となり、丁日には亡くなるでしょう。

手少陰心経の脈気が絶えると、経脈が通じなくなります。経脈が通じなくなると、血液は循環しません。そうすると顏色や潤いは失われ、顏色がすすけたような黒色となります。これは死の前兆です。この種の病では壬日に重篤となり、癸日には亡くなるでしょう。

手足三陰経の脈気がすべて絶えると、目まいし、やがては目を閉じ卒倒してしまう。これは意識を失った状態で死の前兆です。死ぬときは目を閉じます。 六陽経の脈気がすべて絶えると、陰と陽は解離します。陰陽が解離すれば腠理から陽気が漏れだし(皮膚の汗腺が開いた状態)、絶汗が吹き出してきます。これは真珠のような大粒の汗で、ネバネバしていて流れ落ちません。これは死の前兆です。絶汗が朝出ると、その日の夜に亡くなるでしょう。夜に出ると、夜明けに亡くなるでしょう。

第二十五難

二十五難曰:有十二経、五蔵六府十一耳。其一経者、何等経也?

然。一経者、手少陰与心主別脈也。心主与三焦為表裏、倶有名而無形、故言経有十二也。

翻訳文

二十五難曰く:人体には臓腑と連絡する経脈が十二あるというのに、臓腑には五臓六腑といって十一しかありません、余りの一経はどこと連絡しているのですか?

それは~。その一経とは手少陰心経より別れた手厥陰心包経のことです。手厥陰心包経は手少陽三焦経と表裏関係にあり、この二つは名前があって形のない臓腑です。これで十二経脈になりましたね。

第二十六難

二十六難曰:経有十二、絡有十五、余三絡者、是何等絡也?

然。有陽絡、有陰絡、有脾之大絡。陽絡者、陽蹻之絡也。陰絡者、陰蹻之絡也。故絡有十五焉。

翻訳文

二十六難曰く:人体には十二経脈と十五絡脈があり、十二経脈には各々一絡づつ対応していますが、残りの三絡はどれですか?

それは~。陽絡と陰絡と脾の大絡があります。陽絡とは陽蹻の絡脈であり、陰絡とは陰蹻の絡脈のことです。これで十五絡脈になりましたね。

第二十七難

二十七難曰:脈有、奇経八脈者、不拘於十二経、何也?

然。有陽維、有陰維、有陽蹻、有陰蹻、有衝、有督、有任、有帯之脈。凡此八脈者、皆不拘於経。故曰奇経八脈也。

経有十二、絡有十五、凡二十七気、相隨上下、何独不拘於経也?

然。聖人図設溝渠、通利水道、以備不然。天雨降下、溝渠溢満。当此之時、滂沛妄作、聖人不能復図也。此絡脈満溢、諸経不能復拘也。

翻訳文

二十七難曰く:経脈の中には、十二経脈にしばられない奇経八脈がありますが、これについて教えてください?

それは~。陽維脈、陰維脈、陽蹻脈、陰蹻脈、衝脈、督脈、任脈、帯脈の八脈です。この八脈は、十二経脈に支配されません。だから奇経八脈というのです。

十二経脈と十五絡脈の二十七経の脈気は相互に接続し、身体を上下に循環しているのに、奇経八脈だけが支配されずに巡行するのはなぜですか?

それは~。例えば古代の聖人は側溝や暗渠を設けて、治水を図り、洪水に備えました。やがて大雨となり、側溝や暗渠に水が満ち溢れ、荒れ狂っても、聖人は側溝を元の状態に戻そうとはしません。つまり奇経が満ち溢れても、十二経は元に戻すことができません。

第二十八難

二十八難曰:其奇経八脈者、既不拘於十二経、皆何起何継也?

然。督脈者、起於下極之兪、並於脊裏、上至風府、入属於脳。任脈者、起於中極之下、以上毛際、循腹裏、上関元、至咽喉。衝脈者、起於気衝、並足陽明之経、侠臍上行、至胸中而散也。帯脈者、起於季脇、回身一周。陽蹻脈者、起於跟中、循外踝上行、入風池。陰蹻脈者、亦起於跟中、循内踝上行、至咽喉、交貫衝脈。陽維陰維者、維絡於身、溢蓄不能環流灌漑諸経者也。故陽維起於諸陽会也、陰維起於諸陰交也。比於聖人図設溝渠、溝渠満溢、流於深湖、故聖人不能拘通也。而人脈隆盛、入於八脈而不環周、故十二経亦不能拘之。其受邪気、畜則腫熱、砭射之也。

翻訳文

二十八難曰く:十二経に支配されない、奇経八脈とは、どこから始まりどこに連なっているのですか?

それは~。督脉は会陰穴から起こり、脊中の裏側に沿って風府穴に上がり、脳に入る。任脈は中極穴の下から起こり、陰毛に上がり、腹壁の深部に沿って上がり、関元穴通って咽喉に達する。衝脈は気衝穴に起こり、足の陽明胃経とともに臍の両側を上行し、胸中に達して分散する。帯脈は季脇から出、帯脈、五枢、維道で足の少陽胆経と交わり、腰腹部を一周する。陽蹻脈はかかとの中から起こり、足の外踝に沿って大腿外側を上行し、後頚部の風府穴に入る。陰蹻脈もかかとの中から起こり、内踝に沿って大腿内側を上行し、咽喉に達して衝脈と一緒になる。陽維脈と陰維脈は、全身に絡まるが、諸経を循環も灌漑もせず、溢れた時に蓄えるだけである。だから陽維脈は、各陽経が交わる場所に起こり、陰維脈は、各陰経が交わる場所に起こる。これは聖人が作った側溝や暗渠のようなもので、それが溢れると深い湖に流れて行く。だから聖人は流れることに執着しない。つまり脈気が過剰になって溢れ出すと、奇経八脈に流れ込み、流れ込んでしまったら正経に戻って循環することはありません。だから十二経は支配できないのです。病邪の侵襲を受けた八脈は、腫脹して発熱しますので、そこを鍼で瀉血するのです。

第二十九難

二十九難曰:奇経之為病、何如?

然。陽維維於陽、陰維維於陰、陰陽不能自相維、則悵然失志、溶溶不能自収持。陽維為病、苦寒熱。陰維為病、苦心痛。陰蹻為病、陽緩而陰急。陽蹻為病、陰緩而陽急。衝之為病、逆気而裏急。督之為病、脊強而厥。任之為病、其内苦結、男子為七疝、女子為瘕聚。帯之為病、腹満、腰溶溶若坐水中。此奇経八脈之為病也。

翻訳文

二十九難曰く:奇経八脈の病には、どのようなものがありますか?

それは~。陽維脈は各陽経を連絡し、陰維脈は各陰経を連絡します。この両経が互いに連絡できなくなると、失意して気分が塞ぎ、疲弊しきって動作もままなりません。陽維脈が病むと、悪寒、発熱があります。陰維脈が病むと、心痛があります。陰蹻脈が病むと、下肢の外側が弛緩し、内側が引き攣ります。陽蹻脈が病むと、下肢の内側が弛緩し、外側が引き攣ります。衝脈が病むと、※嘔吐して、裏急(お腹をこわしている時の排便前に襲ってくる痛み)します。督脉が病むと、脊柱が強ばり、手足が冷えます。任脈が病むと、お腹にしこりができて痛みます。男子の場合、※七種の疝病にかかりやすく、女子の場合、子宮筋腫になりやすくなります。帯脈が病むと、お腹が張り、腰が抜け、水に浸かったように冷えてしまいます。これらが奇経八脈の病症です。

※原文には「逆気」とあります。「逆気」には肺気、胃気、肝気の3パターンがあって、肺気が上逆した場合、喘息や咳嗽などの症状があらわれます。胃気が上逆した場合、嘔吐やシャックリなどの症状があらわれます。肝気が上逆した場合、頭痛や目まい、吐血などの症状があらわれます。衝脈の場合、二十八難に足陽明胃経と共に上がるとあります。よって胃気の逆上としました。

※原文には「七疝」とあります。七疝病とは、冲疝、狐疝、・疝、厥疝、瘕疝、・疝、癃疝の七種です。これは下腹部や生殖器に関する病で、大小便が出なくなることが特徴です。現在の病気では鼡径ヘルニアや腸イレウスなどがあります。「疝痛」とは下腹部や生殖器に発生するこれら病の痛みのことです。但し現代医学でいう「疝痛」とは胃疝痛、胆道疝痛、腎疝痛、膀胱疝痛、子宮疝痛などに分類され、主に結石症などに伴う激しい発作性の痛みをさしますので、必ずしも古典の「疝痛」とはイコールではありません。

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