耳鳴り・難聴・めまいの鍼灸治療

執筆者 | 2021/07/06 | めまい, 患者向け

こんにちは二天堂鍼灸院の中野です。今回は耳鳴り、難聴、めまいについて書きます。それぞれの症状を一つ、2つ、時にはすべて訴えてお越しになる方もいます。共通の原因となる器官は内耳です。内耳は聴覚と平衡感覚を司る器官だからです。多くの場合、内耳の機能障害ということで服薬による保存的治療を行いますが、顕著な効果がなくお困りの方が多いのも事実です。そうしたケースでは鍼灸治療による内耳へのアプローチも一つの有効な手段です。当院では内耳の機能障害による耳鳴り、難聴、めまいについて、解剖学的解析をおこない科学的な鍼灸治療を行っています。

突然おそってくるめまい

わたしも一度めまいを経験しました。ある朝、布団から起き上がろうとすると、天井がグルグルと回るではありませんか!これにはびっくりしました。何の知識もない人なら、自分がどうかなってしまったかと思うくらいの驚天動地の世界です。しかし、そこはわたしも医療従事者のはしくれ、なるほどこれがめまいなのかと妙に納得しました。
わたしの場合、寝返りや起き上がる時が最もつらく、むしろ座ったり立っている時の方が楽でした。とにかく気持ちが悪く、発作の瞬間は、高いところから奈落の底に落ちていくような感じがしました。座位や立位の方が楽といっても、フワフワとして船酔いのような気分でした。さらに重症の人では、立ち上がることもままならず、吐き気を伴うこともあります。
すぐに知り合いの先生に鍼灸治療をしてもらい、1回目の治療でグルグル激しく回転していた天井が、グルっと1回転するくらいにおさまりました。2回目で発作はほぼ消失、その後、1週間くらいフワフワした感じが残りましたが、時間とともに自然消退し、以後発作はなく完治しました。

なお、めまいは、脳卒中の前兆症状など緊急を要する病態のこともあります。めまい以外にも、顔が曲がったり、しびれたり、ものが二重に見えたり、手足のマヒ症状、言語障害などの症状が認められる場合、すぐに病院で精査することをおすすめします。
めまいの具体的な症状や発症のメカニズムについては、めまいナビというサイトがたいへん分かりやすく解説されていますので、ご参照ください。

鍼灸治療が適応する、めまい・耳鳴り・難聴とは

めまい、耳鳴り、難聴の訴えで鍼灸院を訪れる患者さんは少なくありません。病院での薬物療法では効果がない人、あるいはかなり改善はしたが治りきらない人たちが、相談にみえます。病名では、突発性難聴やメニエル病(orメニエル症候)の人が多くみえますが、他にも、明確な診断がつかない人もたくさんいらっしゃいます。

鍼灸治療が、適応する めまい(平衡感覚)、耳鳴り、難聴(聴覚)については、突発性難聴やメニエル病(orメニエル症候)などの内耳に原因があるもの、あるいは椎骨脳底動脈血流不全といわれる頚に原因があるものです。

メニエル病は、内耳の水分代謝に異常が生じ、内耳にむくみが発生して起こると考えらています。内耳には前庭や三半規管という平衡器と、蝸牛やコルチ器という聴覚器があり、その内部はリンパ液で満たされています。つまり、内耳のリンパ液の循環が悪く、むくみが生じれば、平衡器や聴覚器の機能に異常が生じ、めまいや耳鳴り、難聴が起きるのです。

突発性難聴は、内耳循環障害説、ウイルス感染説の2大説の他、内リンパ水腫、内耳窓破裂、アレルギー、ストレスなどの原因が考えられますが、まだ不明な点も多く、1つの臨床症状を示す疾患群として捉えられているのが現状です。

椎骨脳底動脈血流不全は、椎骨動脈が物理的圧迫によって狭搾し、脳底動脈から三半規管への血流が不足し、めまいが起きます。原因としては、上位頚椎の奇形、頚椎の外傷、腫瘍、変性、あるいは筋による圧迫などが考えられます。首の動きによって、めまいが誘発あるいは増強する特徴があります。

これら上記の疾患に対して、内耳の代謝、頚部の緊張の改善を目的に鍼治療をします。鍼治療が適応する場合、少なくとも3回目までには、改善の兆候が現れますので、それを目安に治療の継続はご判断ください。

さて内耳には、蝸牛と三半規管があり、前者は聴覚を、後者は平衡感覚を司る器官です。
内耳が厄介なのは、頭蓋骨の中にある小さな器官だからです。つまり内耳への直接的なアプローチは外科的な手術に頼らざる負えません。しかし、内耳性のめまい、耳鳴り、難聴の多くは内耳神経の機能障害であり、外科手術は適応しません。

内耳(青色が蝸牛と三半規管、黄色が内耳神経)

内耳神経とは、脳神経の一つです。
脳神経は12あり、脳神経は脳幹より出て、その何本かは顔面や頸部に分布します。
例えば顔面部や頸部が緊張すると、脳神経の中の感覚線維を通して、その緊張が脳幹にフィードバックされます。そして脳幹部に興奮が感作され、脳神経系の機能失調につながると考えられます。つまり肩こりやストレスでの過緊張、疲労などが、めまい、耳鳴り、難聴の引き金となり得るのです。このようなケースでは、鍼灸治療で緊張を解いたり、疲労の回復をおこなうことで症状の改善が期待できます。

脳神経からみる解剖学的解析

脳神経には上から順番に1から12まで番号がついていています。内耳神経(Ⅷ)と関係性が深いのは、顔面神経(Ⅶ)と舌咽神経(Ⅸ)、迷走神経(Ⅹ)です。連続する番号は、解剖学的にも神経が近位にあるので、それだけ影響を受けやすいと考えられます。

脳幹(中枢神経)から出る脳神経(末梢神経)の枝。青いのが内耳神経。

内耳神経と顔面神経は、内耳孔を通過し、内耳神経は内耳へ、顔面神経は頭蓋内から顔面部へと出てきます。つまり、頭蓋内の内耳神経については、体表からのアプローチは不可能ですが、同一ルートを介して体表へ出てくる顔面神経へ刺激を入れると内耳神経への波及効果が高いと考えられます。翳風や耳門・聴宮・聴会といった耳周囲の直近のツボは、解剖学的に考えると顔面神経刺激に適したツボと考えることができます。

耳鳴り・難聴・めまいに対する刺鍼の一例(使用するツボ:完骨・安眠・翳風・耳門)マイクロカレント(微弱電流)で通電

また、後耳介神経(顔面神経の分枝)は後頭筋を支配するので、脳空、脳戸などのツボも有効です。特に頚のコリから緊張性頭痛などの随伴症状がある人は、後頭筋の緊張が顔面神経の感覚線維を介して脳幹にフィードバックされるので、隣接した内耳神経にその興奮が感作し、内耳の機能障害の誘引になると考えられます。

次に頸部に分布する舌咽神経は、中耳の耳管(耳管枝)や鼓室(鼓室神経)に、迷走神経は、外耳の耳介や外耳道(迷走神経耳介枝)へと神経が分布します。つまり頸部の緊張も、舌咽神経と迷走神経を介して、中耳や外耳の器官へ興奮が感作し、中耳性、外耳性の耳鳴りの原因になるとも考えられます。

上記のような解剖学的考察をもとに、当院では、めまい、耳鳴り、難聴の治療については、頭部、顔面部、頸部の有効なツボへの刺鍼を行います。

あわせて全身調整として上肢や下肢のツボにも鍼をします。経絡としては、ストレス系の肝経、滋陰の腎経、耳脈としてのルーツがある三焦経などから選択します。

この記事を書いた人

中野保
中野保

二天堂鍼灸院院長 / ほのしん講座代表

行岡鍼灸専門学校卒業後に北京堂鍼灸・浅野周先生に師事。2001年に独立し二天堂鍼灸院を開院。2007年に炎の鍼灸師・養成講座(現在のほのしん講座)を開校し、後進の育成にも力を入れています。2018〜19年に 『医道の日本』誌に治療法連載。2020年 臨床総合実習(必修単位)の認定施設として学生の指導を開始。2021年 開業20周年を迎え、神戸市・芦屋市での地域一番院を目指し日々臨床に取り組んでいます。
神戸市の鍼灸院・二天堂鍼灸院
鍼灸師養成講座・ほんしん講座