ほのしん講座

関節痛の治療

関節
The collage of man suffering from acute pain

こんにちは。二天堂鍼灸院の中野です。
こちらの記事は、鍼灸師向けの専門的内容ですが、該当する症状で鍼灸治療をご検討の方にも一読をおすすめします。
また主催する「ほのしん講座」の受講生や当方の術式に興味のある先生は参考にしてください。

それって本当に関節のトラブルですか?

患者さんは四肢の領域でいろいろな症状を訴えます。関節痛はもちろんですが、それ以外にも腕や脚が重い、怠い、痺れるなど、あるいは関節部に痛みがあるとしても、実際は関節のトラブルではなく神経痛であることも少なくありません。そういった場合に症状の発現している部位にばかりとらわれていると的を射た治療が出来ません。患者さんからいまの状態に至るまでのストーリーをよく情報収集してください。その時の視点はズームインしたり、ズームアウトしたり、また多面的にその視点を変えたりする事でより精度の高い診断につながっていくと思います。

先日も行きつけのお風呂屋さんで顔馴染みの人が、ここしばらく肩が痛いと私に相談してきました。聞けば時折、肩関節の一点に激痛が走るようで、夜も寝返りができないと困っています。五十肩かな?と思って腕が挙がるか尋ね、動かしてもらいましたが、問題ありません。肩関節に腫脹や熱感がないか尋ねるとそれも問題ないようです。発症時期に肩関節を傷めるような事をしなかったか尋ねましたが、心当たりはないとのこと。ここまで確認すればおそらく肩関節の問題ではないなと見当がついてきます。

肩関節の問題ではなく頸が悪いのでは?私がそう尋ねると、先日整形外科で肩関節のレントゲンを撮ったが、確かに問題はなかったと言います。頸のレントゲンは?と尋ねると、それは撮ってないようです。簡単な問診で診断が出来そうなものなのに、患者さんが辛いと訴えたとこだけしか診ていないようです。それで病院では、湿布薬と痛み止めを処方されたとのこと。ちなみに私は整形外科テストは行いません。動態診については、患者さんに痛みの出る動作を再現してもらいます。そん他に過去の病歴や現病歴、生活環境や生活動作、どんな場面で症状が発現するかを問診すれば大体診断はできます。

さて、試しに斜角筋隙を押圧してみると上肢体に放散痛があります。今しがた洗い場で身体を洗って頸の向きを変えた時にも、いつもの激痛が走ったと言います。もう決まりですね。もうしばらく会話を続けていると、肩関節の痛みは初めてだが、すこし前から同側の腕に力が入りにくい症状があったと言います。おそらく頚部からの神経症状でしょう。

仕事は設備を施行する現場仕事で普段から上を見上げて仕事をする事も多いそうです。頚椎に問題があるか、まずはもう一度病院で確認する事をすすめて、それで頚椎に問題が無ければまだ軽症だと思うと伝えました。そして、後日また銭湯で再会すると重症度の高い頸椎症で今後経過次第ではオペも検討とのことでした。

ゴーストと解剖学的トラップ


つまり例え関節部に症状があっても、関節が原因でない事は存外多いのです。このように主訴域と原因が異なる現象を私はゴースト(幽霊)と呼んでいます。ゴーストを追いかけてもそこには実体(原因)が無いということです。そして、その真の原因となる責任部位を解剖学的トラップと名付けました。ゴーストを捕まえるにはトラップが必要だからです。

上記のケースでは、頚部の神経の障害部位(解剖学的トラップ)にアプローチしなければ有効な治療になりません。たとえ四肢の愁訴であっても、それが関節に起因するものなのか?そうでないのか?それで治療の内容はがらりと変わります。このポイントをよく理解してください。

整理します。

関節のトラブルであれば、

①主訴の関節に熱感、腫脹等の炎症の所見があるか?

②動かしたり、負荷がかかった時に関節に痛みが出ないか?

③スポーツ、運動、仕事、日常生活において原因となる心当たりがあるか?

以上をチェックすれば関節のトラブルかそうでないかをおおよそ判断できます。

関節に痛みがあっても、上記の項目に該当しないものは、関節のトラブルではありません。関節の痛みは、ゴーストです。その他、四肢の領域でも重い、怠い、力が抜ける、痺れる等、こうした神経症状は、解剖学的トラップにアプローチしなければなりません。

上肢ならば腕神経叢の神経根部(斜角筋刺鍼)、あるいは胸郭出口(肩甲下筋刺鍼)です。
下肢ならば腰神経叢の神経根部(大腰筋刺鍼)、あるいは骨盤出口(梨状筋刺鍼)です。


稀に関節に炎症もある、運動時痛もある、でも原因が思い当たらないというケースがあります。

「うん??なんだか訳がわかんないな~って、、、、」

どちらかというと女性の患者さんに多い感じがします。この場合は、運動器疾患ではなく、免疫的要素が絡んでいることもあります。それを頭の隅に置いといてください。免疫疾患の関節痛の治療については後ほどご説明します。

運動器疾患の関節痛の治療


臨床での診断から治療への思考回路は、出来うる限りシンプルに集約し、なおかつ応用性の高いものにしておくべきです。

運動器疾患の関節痛の治療についても、膝痛だから、五十肩だから、テニス肘だから、腱鞘炎だからと、個別に考えるのではなく、治療法についての根幹部は、関節の炎症に伴う一連の不具合とまとめておき、

①関節の炎症部位
②関節窩への刺鍼
③関節のムーブメント
④解剖学的トラップ

への4つのアプローチで対処します。そして、各関節に対しての個別のスキルを添加するように組み立てていけば、どの疾患が来てもいちいち慌てる事は無いと思います。

①関節の炎症部位:これは誰でも分かります。患者さんが痛いと言うところに施術するだけです。整形外科の病院では、ほとんどここに注射をして、痛み止めの薬や湿布を処方して終わりです。しかし、これでは対症療法のみで、原因治療とはいえません。その場しのぎで炎症を抑えても原因治療ができていなければ繰り返し再発します

治療は罹患関節周囲のツボに刺鍼します。例えば膝なら足三里、陰陵泉、陽陵泉、膝眼、梁丘、血海等、教科書的な配穴です。関節部の血流や代謝を促すのが目的です。適度に刺激が入れば十分です。

もし関節の炎症部位に顕著な圧痛点があれば、そこには1番鍼をたくさん打つ場合もあります。患者に最圧痛点を指一本で特定させた後、そこへ10~20本ほど1番鍼を放り込みます。
これは捻挫の治療の応用です。捻挫の治療については、後日公開します。

②関節窩への刺鍼:膝関節なら膝窩、肘関節なら肘窩、肩関節なら腋窩、股関節なら大腿三角、手関節なら手根管、足関節なら足根管、関節の栄養血管と支配神経が豊富にある領域を刺激することで関節全体の新陳代謝を促進するのが狙いです。当然、血管、神経が豊富にある領域なので、デリケートな刺鍼が必要です。

膝窩を例に取れば、一番鍼で膝窩横紋上に3本刺鍼します。時には、五十肩など挙上困難なケース、あるいは鼠蹊部など露出が困難な場所もあります。また、経験が浅く、刺鍼に自信がない場合などは、徒手療法でも代替が可能です。柔軟に対応してください。

ここでは関節のうらおもてを意識してください。患者の主訴の多くは関節のおもて側です。①関節の炎症部位の治療がそれにあたります。それに対して、②関節窩への刺鍼がうらの治療にあたります。二つの治療で関節の新陳代謝を促進します。

③関節のムーブメント:関節を動かしている筋肉のオーバーワークが関節痛の真の原因です。疲労がたまった筋肉は柔軟性が損なわれ、十分に伸縮できなくなります。その状態で関節を動かすと関節にストレスがかかり炎症が起きます。だから、ムーブメントの筋肉のケア、トリートメントが原因治療になります。

とは言え、関節に関わる筋肉のすべてを対象にすると広範囲に及ぶため、重要度の高い筋肉を選定します。一つの指標として、『夾脊刺鍼①』の項でも説明した罹患筋の鑑別方法が参考になると思います。

★ アウターかインナーか?
★ モビリティかスタビリティか?
★ ロングスパンかショートスパンか?

答えは、インナー、スタビリティ、ショートの筋肉がターゲットでしたね。

その他にも、膝関節では大腿四頭筋、肩関節では三角筋など、アウターでも治療重要度の高い筋肉はあります。ここでは関節治療を総論的に説明しています。各論については後日公開します。

④解剖学的トラップ:上記の①~③の治療で成績が芳しくない時は、症状の中にゴーストが隠れているかもしれません。症状域の痛みを担当している神経の走行上で解剖学的トラップが発生し、神経が障害されている可能性があります。患者が訴える痛みには、関節の炎症による痛みと解剖学的トラップによる神経痛がミックスされていると理解してください。例えば五十肩での夜間痛などは肩関節の炎症よりも、肩こりによる頸肩腕症候がその主な成因となっている場合があります。よって肩関節の治療と共に頸肩腕症候の治療を行います。

解剖学的トラップの代表的な部位は、脊髄神経根部(斜角筋、大腰筋、梨状筋)、体幹出口(胸郭出口、骨盤出口)です。

免疫疾患の関節痛の治療


免疫系のトラブルについては、症状の軽重はあるものの珍しくない現象です。体調の変化で免疫力が下がって風邪をひいてしまったり、また過剰に亢進してアレルギー症状が出たりとかは、日常的に私たちが経験する免疫の不具合による症状です。

関節痛もしかりで、免疫が少し働きすぎて関節に炎症をもたらす事があると私は考えています

関節以外にも皮膚消化管も免疫系の病気が頻発するところです。これらの器官は絶えずダメージに晒されやすい部位です。皮膚は絶えず紫外線に晒され、消化管は絶えず飲食物が通過し、関節は負荷と稼働に耐え続けています。これらの器官では、日常的に損傷と治癒のサイクルが繰り返され、免疫系が活発に働いていると考えられます。そして病気やストレスなどの要因で免疫機能が過剰にはたらくと炎症が発生します。そして、暴走し重篤な症状を呈すと難治性の自己免疫疾患と呼ばれる病気に発展します。

関節に現れる免疫の病気といえば、関節リウマチがすぐに連想されると思います。

関節リウマチは、運動器疾患ではなく、免疫機能の異常で生じる関節炎です。したがって関節の症状は全身性で非常に変化しやすいのが特徴です。

施術は患部に1番鍼で極めて軽く刺鍼します。お灸も効果的です。私は発痛部に透熱灸をします。火傷の痂皮を形成するくらいが適当です。透熱灸は、温熱効果よりも異種タンパク療法としての免疫作用を期待して行っています。

運動器疾患の場合は、関節を可動している筋肉のへ施術が原因治療でした。しかし、ここでは免疫亢進による関節細胞への破壊による炎症ですから、筋肉の治療は必要ありません。あとは四肢のツボに全身調整を期待して治療すると効果的です。

たとえリウマチ因子が陰性でも、先述したとおり、関節に炎症がある、運動時痛もある、でも原因が思い当たらないというケースでは、免疫が絡んでいる場合もあると想定しておいてください。その場合は軽度の免疫過剰による炎症状態と判断し、リウマチの治療に準じた施術をすると大体上手くいきます。

鍼や灸は侵害刺激です。顕微鏡レベルでの微小な組織破壊をしています。そして、破壊され壊死した細胞を掃除するのが免疫細胞の仕事です。
噛み砕いて言えば、働かないでもいい所で仕事をしている免疫くんたちに、こっちでちゃんと働きなさいよ!と仕事を与えてあげるんです。そうすると、関節のところで必要のない仕事をしていた免疫くんたちが「わーい、仕事だ!仕事だ!」と正常な免疫活動に戻るんです。

この記事を書いた人

神戸市の鍼灸院・二天堂鍼灸院鍼灸師養成講座・ほんしん講座

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